閑話72 生半可
【ルーク視点】
ご信託があってから連日、聖女院で私は面接に明け暮れていました。
「ルーク様、休憩を挟まれては?」
「大丈夫ですよ、クリスさん。それにソラ様は学園に通われている中こうして我々では到底気付き得ない数々の世直しをされていらっしゃるのですから、私だけサボっているわけにはいきませんよ」
「働きすぎだと忠告したつもりなのですが……。本来ならばソラ様にもそうお告げしたいのですけれど……」
ですが、学園に通うことをソラ様にお願いしておられるのは我らが神、エリス様。
それを私達がとやかく言うことは許されておりません。
ここは聖女院地下訓練施設。
本来は影の者達が使う施設ですが、今はそこをお借りし面接のついでに魔法や武術の技術をチェックします。
『鑑定のメガネ』を二人でかけ、面接者を呼びます。
「次の方、どうぞ」
失礼しますと声がして入ってきたのは聖女学園の制服に身を包んだ物静かそうな少女でした。
「あなたは確か……マヤ・エドウィンさんでしたね。伝道師志望とのことですが」
「はい、お願いします」
伝道師とは、来る魔物や魔王達の対策のため各国に正しい武術や魔法の知識を広める集団。
ソラ様は以前、「正しい知識さえあれば、魔王を倒すのに聖女は必要ない」と仰いました。
この世界で一番の戦闘技術を持つ御方は、私達では到底考え付かない地点にいらっしゃるのでしょう。
「一つだけ、魔法を見せてもらえますか?」
「はい。氷結晶の網」
綺麗な氷の結晶が木々の枝分かれのようにどんどんと伸びて行きました。
それはとても繊細な魔法。
彼女は年の割には優秀なのでしょう。
「マヤさんは、どうしてここ聖女院を志望されたのでしょうか?」
「私には将来の夢がありませんでした。でもこの間、そんな私でもソラ様は命を救ってくれたのです。それ以来、私は次第にソラ様と聖女院に興味を持つようになりました」
「ではあなたはこの聖女院で何を為したいとお考えですか?」
「……ソラ様の、お役に立つことがしたいです」
「……失礼ですが、少し志望動機が薄いと思います。お役に立ちたいのなら必ずしも伝道師である必要性はありませんよね?」
「……」
隣にいたクリスさんが言及をし始めました。
「鑑定には問題はありませんが、ソラ様に命を救われたのは全世界の国民がそうですからね。嘘を付かなくてもでっち上げられる可能性は高いです」
「それは……」
「それくらいでいいでしょう」
私はそこでクリスさんの追及を制止しました。
「そうですね、相手は学生。少し大人げなかったかもしれません。ですが同じ聖に仕える者として、聖女院を生半可な気持ちで志望していただきたくないのです」
「私は、本当に……」
「マヤさん、貴女はここに入ることを希望されますか?」
「え……?」
「ルーク様!?どうして……」
それは、内定後の意思確認。
私の言葉に驚いたのか、クリスさんは驚きを隠せないでいました。
「ソラ様ご本人からマヤ・エドウィンさんをお願いされておりますから」
「……初めから、そうおっしゃっていただければよかったのに。ルーク様も人が悪いですね……」
「私も聖女様方に揉まれて育ちましたから」
ギリギリのブラックジョークは本来内輪の者達にしか使えませんが、ソラ様のご学友ならば大丈夫でしょう。
「マヤさんはシエラ様のこともご存じのようですから、とても信頼されているようですよ」
「そうなのですね」
「……」
そう言うと、マヤさんは初めて表情を変え、笑みを浮かべました。
「ですが、私は……」
「聖女様のご希望を叶えるのが聖女院です。ですがご本人が望んでいないのに聖女院に入らせるようなことはあまりしたくはありません。ですから、あとは貴女が入りたいかどうかだけですよ」
「私は……入りたい、です」
「わかりました。ですが暫くは学業優先でお願いしますね。そうですね……リリエラさんと同じ扱いにしましょうか。これからは月に一回お手伝いに来てください」
「……リリエラ風紀委員長が、こちらに来ているのですか?」
「彼女はシエラ様が最も信頼を置いているお方ですから」




