第261話 両親
休日。
久しぶりにゆっくり起き、まったりと休日を謳歌していると、セフィーとシェリーの二人が部屋にやってくる。
「二人で来るなんて、珍しい」
別に二人の仲が悪くなったとかではない。
シェリーは小説家、セフィーは魔拳使いとして二人ともそれぞれ将来どうなりたいかがある程度決まり、目標に向かって忙しくしているからだ。
「実は、お義母様にお願いが……」
「なんでも言って」
言い辛そうにしている二人に微笑みかける。
最近はあまり頼られることも少なかったので、少し嬉しかった。
「実は、前回リリエラ様とマクラレン侯爵領の避暑地にご招待された際、マクラレン侯爵様から……その……両親に会ってみないかと提案されまして……」
「……」
シェリーの実の親であるゼラ元男爵家と、セフィーの親であるオルドリッジ元伯爵家のことだ。
以前セフィー達は両親に虐められていた。
マクラレン侯爵へのコネ作りのために当時落ち込んでいたリリエラさんの悩みを解決しようとし、僕を嫌がらせをさせるに至った張本人達だ。
「よく反省しているとのことで、お母様が特に会いたいと……」
「でも、私……とてもじゃないですが、信じられなくて……」
それはそうだ。
僕だって実の母や姉が突然「今までのことを反省している」だなんて言い出したら、とてもじゃないけど信じられない。
「二人とも、行きたくなければ行かなくていいの。もっと大人になってから会うって選択肢もあるんだから……」
僕にはもう実の家族はいないけれど、二人はまだ会えるもんね。
どんなにあれでも家族は家族。
やはり僕では親の代わりとは言えないもの。
「それでも、いつまでも引きずっているわけには……」
「分かった。じゃあ付いていけばいいのね?」
「……よろしいのですか?」
「勿論。というより、そういう相談じゃないの?」
「情けない話ですが、そうです」
「情けなくなんかないよ。私だって、二人の立場なら同じことをしただろうし。それに、警戒はしておくに越したことはないよ」
そんなわけで、僕は二人とマクラレン領へ行くことに。
二人は乗り合い馬車で行く予定だったらしいが、善は急げということでハープちゃんを出すことにした。
『――降臨せよ 教皇龍――』
召喚すると、いつもの龍の姿ではなく、この間の人の姿になっていた。
「……えっ?」
「主っ!」
がばっと僕に抱きつくハープちゃん。
「ええっと、どうして人の姿……?」
「主がその……可愛いと褒めてくれたからだ……」
凛々しい彼女はギャップの塊だと最近気付いた。
「ええと、もしかして教皇龍様ですか……?」
「いかにも!我はいつも主の求める姿で現れようぞ」
「いや、今なって欲しいのは龍の姿なんだけど……」
ただの交通手段で呼んだなんてとてもじゃないけど言えなかった。




