第25話 祝辞
「――新入生代表、シエラ・シュライヒ」
拍手とともに礼をし、舞台脇に掃ける。
風邪も治り、入学式も無事予定どおりに開催された。
僕も陰ながら手伝った身として無事に開催できることに嬉しさを感じ、不思議とスピーチには緊張しなかった。
まさか新入生代表をすることになるとは思わなかったけれど、嘘でも侯爵家の首席が辞退するのは不自然なのだろう。
「続きまして、在校生挨拶。 在校生代表、ソフィア・ツェン・ハインリヒ」
壇上にソフィア王女が向かうも、礼はせずにそのまま話す。
その違いは、彼女が王女だからだそうだ。
「新入生の皆様。 ご入学、おめでとうございます。 初代聖女様が創立されてから、計百代の聖女さまがこの聖女学園をお見守りくださいました」
王女だからなのか、それとも1年間会長をしているからなのか。
そのスピーチは堂々としたものだった。
まるで僕とは正反対で、常に自身に満ち溢れているようだった。
いや、立場的にもそうでなければならないのかもしれない。
「そして今年はトラブルに見舞われました。 しかし私達は大変幸運なことに、サクラ様とソラ様のお力添えによって、無事にこの入学式を開催することができました」
えぇ……それ暴露されるの……?
「お二方には、新入生の皆様の制服を届けるためご助力いただきました。 そして更にソラ様は、この多目的ホールを、シックで強固な新しい施設へと建て替えてくださいました」
何だこの公開処刑……。
せっかく尊敬しそうになっていたのに、こんなのじゃ情緒おかしくなるよ。
そこで突如、後ろから男性の声がした。
「シエラ様……。 すみません、失礼します」
え、ルークさんが何でここに……?
「ちょ、ちょっとルークさん何す……」
何度も「申し訳ございません」と謝りながら、ルークさんは舞台裏の奥の部屋に連れ込むなり、僕を行きなり脱がせて礼服に着替えさせてきた。
あんなに僕の裸を見ようとしなかったあの時のルークさんとは大違いだ。
そして言動が矛盾している。
そして聖女院のトップであるルークさんに命令できる人間なんて、一人しかいない。
……犯人は分かった。
でも、僕はこれからいったい、何をさせられるんだ……?
「――在校生代表、ソフィア・ツェン・ハインリヒ」
着替えているうちに、いつの間にかソフィア王女の挨拶が終わっていた。
「続きまして、来賓祝辞。 本日は今回ご活躍なされた百代目、大聖女ソラ様にお越しいただきました。」
……は!?ちょっ!?
こんなのソフィア王女との打ち合わせの時にはなかったよ!?
僕はシエラとして、主席として入学生代表のあいさつをするだけじゃなかったの!?
「ソラ様……。 お願い……致します……」
もの凄くつらそうな顔でルークさんが土下座をしてきた。
あれが上からの命令を無視できず実行するも、胃が痛くなる管理職の姿だ……。
苦労人には僕の分も幸せになってほしい。
ルークさんのせいというかおそらくサクラさんのせいなのだが、断る選択肢が消えてしまった。
きっと、この間の仕返しだろう。
エルーちゃんだけでなく、サクラさんにも迷惑をかけたのは事実だ。
ここは甘んじて受け入れるしかない。
僕は先程と違う姿で舞台に戻ると、入学式にも関わらず黄色い声が聞こえてくる。
どうしよう……祝辞なんて何も考えてないよ……。
「入学生の皆さん、父母の皆さん。 ご入学、おめでとうございます。 無事入学式を迎えられ嬉しく思います」
僕も入学生の一人だったはずなんだけどね……。
「こんなことは入学式に言うことではないかもしれませんが、私は学校にいい思い出がありませんでした……。 勉強をするのは好きでしたが、交友関係は壊滅的でしたので。 皆さんも私みたいになってはいけませんよ」
ほんと、何言ってんだろうね。
僕はアドリブは得意じゃないんだよ……。
「けれどこの学園を見て、少し考えは変わりました。 今は初代聖女であるお祖母ちゃんが残したこの学園を、大切にしたいと思っています」
このくらいは言っても大丈夫だよね。
「だから、私にこの学園の素晴らしさを教えてください。 私が次に来たとき、入学生も在校生も先生も、誰一人欠けることなくみんなが笑顔でいられているような学園の姿を、私に見せてください。 これが私から、皆様に託す言葉です」
あ、そういえば締めの挨拶どうしよう……。
僕はおもむろに杖を取り出し、"祝辞の魔法"を唱えることにした。
『――全てを包み込む光炎の花園よ』
ついでだし、この多目的ホールも彩っておこう。
『今ひと度吾に力を貸し与えたまえ――』
大きな杖の先に白く光る翡翠色の水晶が、やがてホール全体を包み込む。
『――フレア・サンフラワー――』
光でできた大きなひまわりの花達が、多目的ホールの壁という壁からにょきにょきと生えてくる。
ひまわりから天井や壁に向かって光が発せられると、聖女学園の制服にも描かれていた、高貴を表す白い百合の花が次々と壁や天井に描かれてゆく。
「これが……大聖女さまの魔法……」
白い百合の花はレーザー光で焼きをいれて白くしているので、よほどのことがない限りは消えない絵として残るだろう。
役目を終えた光のひまわり達は散り、光のシャワーを降らせた。
「綺麗……」
「この百合の花をもってして、お祝いの式辞とさせていただきます」
盛大な拍手を背に、僕は舞台を後にした。
◆◆◆◆◆
去り際、舞台袖にいたソフィア王女とすれ違ったときに
「やはり、大聖女さまは百合……」
とよく分からないことを呟いていた。




