第24話 罹患
喉が痛い。
頭が痛い。
脳がぼーっとする。
龍の背中に乗っていた時も、フェンリルの背中に乗っていた時も、防寒をしていなかった。
風邪を引いたのは自業自得だ。
「こほっ……」
「まだ熱がおありなのですから、今日はじっとしててくださいっ!」
起き上がろうとすると、エルーちゃんに全力で寝かせられる。
「ごめんなさい……」
約束を破った手前、謝るほかなかった。
「本当は無理をしないでいただきたいのですが、ソラ様はお優しい方ですから……。皆様に頼られるのは仕方のない事ですが、ご無理をなされることは皆様も望んでいないと思います。倒れられる前に、誰でもいいですから相談してください……」
「はい……」
エルーちゃんの怒りはお祖母ちゃんが怒った時と同じで、僕を心配して言ってくれているのが伝わってくる。
そういえば、最後に風邪を引いたのもお祖母ちゃんが元の世界にいた時だったな……。
風邪を引いてるときも吐いているときと一緒で、なんでかは分からないんだけどいつもより負の感情が強くなるんだよね。
体がつらいからなんだろうか?
死にたいとか寂しいとか、頭のなかでいつもの自分ならあまり表に出てこないであろう感情が湧いてくる。
エルーちゃんはいつもより甲斐甲斐しい。
タオルで拭いてくれたり、トイレまで付き添ってくれたり、お粥を食べさせてくれたり。
ちょっと恥ずかしかったけど、今日だけはありがたかった。
「――熱が少し下がりましたね」
僕の額に手を当てて確認してくる。
「タオルを変えてきますね」
去ろうとしたエルーちゃんのスカートの裾を僕は軽く引いた。
振り返って驚いた顔をするエルーちゃんを見て、引き留めなければよかったと思った。
「ごめん……なさい……。でも……寂しくて」
我ながら気持ち悪い…………。
でも今は、この湧いてくる負の感情を処理するのに精一杯だ。
エルーちゃんが、お祖母ちゃんみたくいなくなってしまいそうで急に怖くなった。
左手はスカートの裾を掴んだまま、右手は唇を触りながら小さく呟いた。
「お願い……いなく……ならないで…………」
「…………。」
ああ、気持ち悪いと思われたんだろうな……。
何かを呟くと、エルーちゃんはベッドの縁に座り、僕の手を取ってくれた。
「ソラ様、私はずっとおそばにおります。むしろこれからソラ様がお嫌と感じるほどに付いていきますから、覚悟しておいてくださいねっ!」
ああ、お祖母ちゃんと同じ、優しく包み込んでくれるような微笑みだ。
僕はそれを見ると、緊張の糸が切れたかのようにすっと眠りに落ちていった――