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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第31章 頽堕委靡
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閑話67 説落し

【セラフィー視点】

「……行かれたか。行くぞ神流!」

「はいっ!お父様!」


 神流様と神居様、そして忍様は中級闇魔法『影隠密(シェード・カバート)』で認識阻害をし、姿をくらます。


「甘いッ!影の旅路(シャドー・ジャーニー)


 それを見た迦流羅様は影の中に身を潜り込ませる上級闇魔法。


「姿を消したつもりでも、下から見れば……影がバレバレよ!」

「「きゃあっ!?」」

「ぐおおっ!?」


 右手、左手、右手と三人を順に掴み、身体強化した両腕の馬鹿力で豪速球で投げつけた。


「……かはっ……!」

「皆様っ!」


 壁に叩きつけられ、反動を受けて踞る。

 獏様に無属性強化魔法を施されているというのに、この威力……。


「大丈夫ですか!?エリアヒール!」


 私は三人を起き上がらせて回復する。

 これも同じクラスの光魔法使いの友達のお陰。

 

 「脳筋くノ一」と称されている割には、魔法も使っていてあまり脳筋らしさは感じられないが、攻撃手段が闇魔法ではなく強化魔法でのパワープレイだから脳筋と言われているのだろうか?


「ありがとうございます、セラフィ―様」

「光魔法ヒーラー……。厄介ね……」


 操っているインキュバスの気持ちが迦流羅様に流れてきているのだろうか?

 だが私のことを光魔法使いだと誤認したことは大きい。


「獏様っ!」

「……!」


 すぅ……と消えた神流様と忍様。


「ふんっ!闇の(ダーク・)侵略(インベージョン)


 暗闇が目のない異界の化け物のように形作られると、お二人ともそれに吹き飛ばされる。


「ぐぅっ……!」

「こ、これも駄目なの……?」


 上級魔法を軽々しく放ってくるなんて……!

 あの余裕はどこから来ているというのだろう。


「お、おかしい。迦流羅はここまで闇魔法が得意ではなかったはず……」

「まさか、インキュバスの催婬で強くなったと……?」

「ああ」


 迦流羅様はこちらを見下す。


「忌々しい獣め……」


 お義母様によると聖獣様は共通してご自身の属性の他に光魔法が使えるそうだが、モードをチェンジしないと使えないらしい。

 今は無属性魔法の「一体化(インテグレーション)」で私達を透明にしてくださったり、強化魔法で私達が攻撃を食らっても死なないようにしてくださっている。

 だから「モードクリア」の状態で無属性しか使えず、迦流羅様を助けるための光魔法が使えない。

 獏様は、完全に私達を死なせないためにモードチェンジを封じている。

 私達こそ、獏様のお荷物なのだ……。


「……獏様、私にもお願いします」

「……」


 私がサポートしか出来ない光属性の魔法使いだと思っている。

 おそらく、この誤認識を利用できるのは一度だけ。


 もう、私は間違えない。


 すうっと体が透けていくのを合図に忍様が左手、神流様が右手から仕掛けていく。

 私はそのタイミングで「影の旅路(シャドー・ジャーニー)」とぼそりと呟く。


 私の「臨画」は一度見た魔法を真似る。

 

 今の私は透明になりながらにして、影に潜んでいる。


 シュネーヴァイス様は、「臨画」が成功するには、相手と同等以上のレベルに到達していることが必要だと仰っていた。


 迦流羅様の魔法を使えた、ということは、私は迦流羅様よりレベルが高いということに他ならない。


「馬鹿の一つ覚え……いい加減諦めなさい!」

「きゃあっ!」

「っ……」


 拳に闇属性付与をして殴る迦流羅様になす術もなく吹き飛ばされる。


 ……まだだ。

 確実に仕留めるためにも、まだ近付くんだっ!


「おらあっ!」


 手を使って隙が出来たところに、神居様が時間差で上から全体重を乗せたクナイでの攻撃を放つ。


闇の(ダーク・)侵略(インベージョン)

「ぐああっ!」


 影からにゅっと顔を出した異界の化け物がまるで塵を払うかのように軽くはね除けると、横に吹き飛ぶ。


 今だ!


 私は地面から手を翳して手も魔法も使い果たしたその一瞬の隙を突いて抱き着いた。


「っ!?しまった!」

「エリアヒールッ!!!!」


 聖なる光は、やがて光と共に範囲内のすべてを癒す。




 光が収まると、迦流羅様は意識を失って倒れた。


「お、終わった……」


 私が、やったんだ……。

 お義母様は、褒めてくださるだろうか?




 やがて一番最初に起き上がった忍様は私にこう言った。


「セラフィー様は将来ソラ様に尽くしたいと仰っておりましたね?」

「ど、どうしてそれを……」


 それはソラ様達にしか話していないのに……。


「私はソラ様の影ですから」

「……せい……えい?」


 肯定の頷き。


 私達と同じくらいの年に見える忍様が、聖影を務めていらっしゃるとは……。

 ソラ様のエルーシア様もそうだが、私の周りにはすごい人ばかり。


「セラフィー様、もし影にご興味がおありでしたら、私にご連絡ください」

「か、考えておきます……」


「っ!?」


 その時、急に私の頭の中に激痛が走った。

 なんだ、この……頭から流れてくるものは……!?


「セラ……フィー様……お逃……げ……」

「ぐぅっ……頭が……」


 どうして……!?

 光魔法を使えるものは効きにくいと聞いていたのに……。


「……主様の仰せのままに……」

「そんなっ……忍……様まで……ぐうぅ……」


 暗くなっていく視界に、いつしか思考が……悪くなって……いく。


 お義母……様のところに……いかないと……。




 そして……私は……




 ■……様のために……




 お義母様……を、始末……しなくては。

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