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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第31章 頽堕委靡
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第247話 二手

「どうして帰ってきやがった、神流ァ!」

「お、お父様!聞いてください!」

「問答無用!」


 言うのが先か、手が先か。

 神流さんのお父さんと思わしき人が全力で両手を広げると、攻撃するかと思いきや、やがて熱く抱擁を交わした。


「神流ァ!!無事でよかったぞォ!!!!」

「ちょ……お、お父様!?」


 やっぱりそうだったか……。


「初めから、あなたは神流さんを逃がすために一芝居を打っていたのですね」

「な、何を言う……!?」

「相手はインキュバス……そうか!初めからお父様は操られていなかったのですね!」

「だけど、神流のお母さんは操られていた……」

「そうです。その異変にいち早く気づいたあなたは、神流さんがこの国から出てわざわざ()()()()静馬王子を誘拐するように仕向け、わざと失敗させることで私たちに神流さんを保護してもらおうと考えた」

「っ!?どうして、そう思う……?」


 聖女院には現在聖女が二人もいるし、たとえそれがいなくとも聖女院には騎士団や聖影の人たちが治安を守っている。

 そんな最も誘拐のしにくい環境に移動してから誘拐するのなら、普通はここまでくる道中馬車に居る時に襲うほうが圧倒的に成功する確率が高かったはず。

 それなのに道中に襲わずに、わざわざ聖女院まで来てから襲わせたのは、初めから失敗させて聖女院に匿われることを想定していたのだろう。


 ただ問題はそれすらインキュバスの手の者達に読まれていたことだ。

 インキュバスの手の者によって弥王に事前に自爆玉を渡されていたせいで、もし歯車のかみ合わせが悪ければ神流さんと弥王が犠牲になってしまっていたかもしれない。


 インキュバスは操っている女性を介して直接生の情報をとってくることができるのだろう。

 だからこそ先手先手で先回りして追い詰めることができていた。


「お父様……」

「ソラ様のようなイレギュラーがなければ、すべてはインキュバスの思い通りに事が運んでいたと……」


 それ、褒めてる……?


「ソラ様、だと……?」

「そこにいらっしゃるじゃありませんか」

「……は?」


 ああ、そういえば今僕はシエラだった。

 最近自分が女装と変装をしていることを忘れがちなんだけど、もう末期なのかもしれない……。


 僕はウィッグを外す。

 あ、固まってしまった……。

 いろいろと予想外だったようだ。


「か、神居(かむい)と申します。む、娘をお守りくださり、誠にありがとうございます……」

「お、大袈裟ですって……。それより、ここに来たということは、お母さんのほうはまだ……」

「ええ。今も操られています。ですから、こうやって迦流羅(かるら)の目を盗んでここまで来るのも大変だったのですよ!」


 そんなことを言っていると、ドゴォと扉を蹴破ってこちらへ来る女性の姿が。

 噂をするから……。


「「っ!?」」

「……まずいですね……」

「相手は脳筋くノ一と呼ばれている迦流羅……」

「ふふふ、見つけた……!あなた、どうして逃げたのですか?」

「ひ、ひぃっ!?」


 ゆっくりと近付く迦流羅さんに、神居さんはたじろいでいる。

 それだけで、この夫婦の力関係が分かってしまうかのようだ。


「ソラ様、ここは我々にお任せを!」

「でも……」

「これは私達の問題ですから」

「加勢します」

「……わかりました。ここはセフィーと嶺家の二人に任せますね」

「わかりました!お義母様もご無事で……!」


 僕はその言葉を残して、エルーちゃんとステラさんを連れて宮殿の外へと飛び出した。

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