第245話 洗脳
散らばって探し始めるが、僕たちは透明になっているので見つけるのは至難の業だろう。
「ふぅ……行きましたね」
忍者の集う梛の国、獏がいるとはいえ油断ならないな……。
「すみません、まさかシエラ様が指名手配されるなんて……」
「いや、私がうまく立ち回れなかっただけです。それに、皆さんが指名手配されなかったのですから、上出来です」
犠牲になるのなら、僕一人でいい。
「こっちです」
庭園を抜け、施設の中に入る。
「皆さん、ここからはこれに履き替えてください」
足音を消すアイテム『忍者の足袋』を全員に渡す。
「これはっ!?忍者ならば一度は夢見るという、伝説のクラフトアイテムではないですか!!」
「くんくん、これがシエラ様のおみあしのかほり……」
「いや、普通に新品だよ……」
『忍者の足袋』に頬擦りする神流さんに、臭いをかごうとする忍さん。
「……」
「セラフィー様、どうかなさいましたか?」
エルーちゃんの問いに、閉口していたセフィーがやがて口を開ける。
「……なんというかお義母様のご家族って、皆さん癖が強いですね……」
「……言わないで」
……悔しいけど、僕もそう思う。
「セフィーは、こうはならないでね……?」
「お義母様が一番癖が強いのですから、無理では?」
「ふぇ……」
義娘が辛辣すぎてつらい。
「癖が強い……。確かに、癖の強い下半身をお持ちで……」
忍さん、何言ってんの……?
「修行に関しては、師匠が一番頭おかしいですもんねぇ……」
「ステラちゃん、これが終わったらまた一緒に修行に行きましょうね……?」
「そ、その言葉が一番聞きたくなかったんですよぉ!!」
にっこりと微笑むと、ステラちゃんはカタカタと震えだした。
「恐らくこの部屋で……いました。あれが樹村卿です」
高そうな薄緑の着物にショートボブの髪型をしたお姉さんがそこにはいた。
「それで、会ってどうなさるのですか?」
僕は「患グラス」で樹村さんを看る。
「嫌な予感が的中してしまいましたね……。ひとまず彼女を取り押さえてください」
「承知!」
光の束縛は使えないため、嶺家のふたりに一斉に両肩を抱えてもらって、拘束した。
「っ!?何者っ!」
僕はそのおでこをパシッと叩くと、僕は洗脳を解除するための光属性ではなく、無属性魔法を流した。
「探知!」
洗脳魔法は、操っている者と魔力糸が必ず繋がっている。
だから僕はあえてそれを解除せずに、追おうとした。
「っ!?」
「シエラ様!?」
「いや、大丈夫。向こうから洗脳を切られた。相手は狡猾のようだね……。ひとまず、樹村さんを治しましょう」
ヒールと唱えると、樹村さんは正気を取り戻した。
獏の透明化を解除する。
「樹村卿、ご無事ですか?」
「あなたは嶺の若頭……。私は、操られていたのですか……?」
「ええ、そのようです」
「失礼ですが、あなたは?」
「樹村卿、大聖女様の御前であらせられる」
「っ!?」
すぐさま手慣れたような所作で土下座の耐性に入ると、ゆっくりと低頭した。
「た、大変失礼いたしました!私は梛の国宰相の冬子と申します」
「今はシエラとしてここに居るので、そういうのはよしてください……」
「御意に……」
ああ、この人も苦労人だ……。
「それよりも、問題は操っていた魔族です」
「魔族……!?何者なのですか?」
「魔王四天王が一人、インキュバスです」




