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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第30章 相縁機縁
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閑話65 虎の子

樹下(きのした)藤十郎(とうじゅうろう)視点】

「それで?ソラ様のお肌は美しかったのか?」


 明らかに拗ねている素振りを見せるケイリー殿。

 今まで見ないようにしていたが、こうもあからさまでは気づかぬというのも難しい。


「まあ、そうだな。しかし、殿方であることは確かだぞ。でなければ、拙者が一緒に風呂に入って動じずに帰ってくることはあるまい」

「む、むぅ……」

「まあ、女も羨む美肌であったからな。あれを初見で殿方と判断するのは、エリス様以外無理だろう」

「ま、まあ確かに……」

「というわけで、拙者は見事に初恋が霧散してなくなってしまった」


 手を広げ、半ば自棄のような状態になる。


「仕事でここに来ていなければ、お酒で飲み明かしたいのだがな」

「まあ、それくらいなら付き合うさ」

「…………」


 ソラ様からのアドバイス通り、拙者もそろそろ気付かないふりはやめようと思う。


「拙者、ソラ様に怒られてしまってな」

「大層嫌われていたのは、おそらく『乙女の秘密』を広めたからだろうな。いや、でもあれはステラ殿が率先して広めていたのだが、それを伝えておくべきだったかもしれないな……」


 相変わらず真面目な人だ。


「その件じゃない。『身近にあなたを思っている人がいるのに、無視するのはよくない』と言われてしまった……」

「っ!?」


 そこでようやく自分のことを言われていると気づいたようだ。


「まさか、気づいて……」

「さすがにそこまで鈍感ではないさ」


 顔を真っ赤にしたケイリー殿をよく見つめる。

 なるほど、きちんと見ると可愛らしい。

 ソラ様にはかなわぬが、これもまたいいものだ。


「……知られてしまっては……しかたにゃい!」

「……にゃい?」

「か、噛んだだけだ!」


 さらに顔をトマトのように真っ赤にしながら、拙者に向けて言葉を発する。


「私は、貴殿が好きだ。雪小屋で初めて介抱されて、その温かさに私は安堵した。だがそれはきっかけに過ぎない。貴殿の何事にも一生懸命な姿に、私は惹かれている……」


 拙者は色恋には向いていないなと思いつつ、今の素直な気持ちを伝えることにした。


「生憎、今は失恋したばかりでな。刀の使い方も誤っていたし、いろいろと考えさせられる体験をさせてもらったばかり。だからあまり色恋には積極的にはなれない」

「……そうか」

「だが、待ってくれるというのなら、拙者はあまり待たせずにその気持ちに応えようと思う。少なくとも貴殿のことは、好意的に思っているからな」


 ケイリー殿は思わず目を見開き、そしてやがて優しい顔を浮かべた。


「今は、それでいい。貴殿の隣で気長に待っていることにする」


 拙者が頭をなでると、頬ずりをしてくれた。




 翌朝。


 いつものように涼花殿と手合わせをしていた。

 こちらに来ている間のルーティーンだ。


「師匠、もしかして刀を変えられましたか?」

「左様。大典太は使い物にならなくなってしまったからな……」

「何があったのですか!?」

「ソラ様に粉々にされてしまった。ははは!すさまじいな、あの御仁は!」


 大典太を粉々にされた奥義・日輪。

 光属性を盛大に纏った大典太による、高速連続突き。

 それは日輪(太陽)の名の通り、光の塊が押し寄せ、呑み込まれる感覚。

 拙者はその光に呑み込まれ、気が付いた時には拙者の大典太は粉々になり、拙者は地に伏していた。

 一体どれほどの時を刻めば、あの極致に到ることが出来るのだろうか?


「笑いごとなのですか……?」

「雫様の使用していた大典太が粉々だぞ!それに、大典太ならあと900本も所持しているからいくらでもあげるというではないか!もはや笑うしかあるまいて……」

「きゅっ……!?」

「だが、代わりに下さったこの『藤四郎』はそんな刀を熟知されたソラ様が拙者に合うだろうと選んでくださった一品。拙者もまた一から覚えなおしよ」

「刀の道は、険しいですね」

「だが、着実に十歩くらいは進んでいる。ソラ様に教わったものを、貴殿にも共有するつもりだ」

「……ふふ」

「どうした、涼花殿?」

「師匠がいつになく元気そうなので、おかしくて。それもこれも、彼女の影響ですか?」


 脇を見ると、むっとして立っているケイリー殿が見えた。


「そう、かもしれんな……」

「熱心に、ずっと見ていましたよ。もしかして……私はお邪魔でしょうか?」

「そんなことはない。だが、これ以上やると妬かれてしまうのは明白だからな。悪いが本気でいかせていただく」

「それは光栄ですね。ですが、以前と違う刀で、本気を出せますか?」

「無論だ!『土気解放』!」


 拙者の声とともに、土煙が舞う。


 ソラ様に教えてもらったことは、一つ一つが拙者の宝物だ。

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