第236話 精通
「な、なんだ……これは?」
鬼丸の霊気解放は、魔力を代償として身体強化を底上げする。
大典太の場合、刀に光属性を付与でき、まるで光魔法のような現象を起こすことが出来る。
つまりは、杖代わりに使える刃物ともいえる。
それなら打撃と魔法ができるステッキの上位互換のように感じるが、あくまで「魔法のような現象」しかできず、実際に刀で魔法は撃てない。
だが刀によっては回復や強化、属性付与、弾を飛ばしたりもできる。
となると「魔法ライク」である刀とステッキにあまり差はないように感じるが、刀は持った本人にしか付与されないため、味方を回復したりなどのことはできない。
そして肝心なのは、刀では最上級魔法が撃てないことだ。
聖女としてオールラウンドに闘うなら、ややステッキに軍配が上がる。
僕の場合はステッキでも十分蹂躙できるほどのステータスなので、持っている武器が刃物であるか否かはあまり関係ないというのも理由の一つではあるんだけどね……。
「樹下さん、少し本気でいきますが死なないでくださいね」
「くっ!」
「――参の舞、明日檜――」
「っ!?」
押さえ気味に放った明日檜ですら、明日というか……もはや明後日の方を向いているレベル。
人一人が平気で消し去る程の太さの光の斬烈波が木床を裂き、樹下さんでさえ受け止めることをやめて避けるほどだ。
光気解放をするとすべての舞技に光属性が付くだけでなく、解放前にはなかった斬烈波などの強力なおまけが付いてくる。
練度を鍛えきった舞技は、あまり人前で見せるものではないなと思う。
神社の舞台も後で直しとかないとな……。
樹下さんのためにも、神社のためにも、この仕合は早く終わらせよう。
「先程、樹下さんが話された件で少し納得がいっていないことがあります」
「な、何のことだ!?」
「見れば分かりますよ。――壱の舞、朔日草――」
朔日草は寒暖に合わせてその花びらが開いたり閉じたりする様のように、弧を描く斬撃なのだが、光気解放後はもはや光属性の曲がるビームが朔日草の形に開花しているように変化している。
「――五の型、旋風――――弐の舞、百日紅――――一の型、白浪――」
旋風の回転切りを避けられたが、休む暇を与えず百日紅の横切りに繋げる。
それをなんとか刀で斜めに受け流すが、白浪の二連横切りをついでに繰り出す。
樹下さんはそれをがっしりと受けて弾くが、少し後ろに押し出される。
「ぐっ!!そういうことか!」
「――漆の舞、向日葵――」
「っ!」
飛びかかり、下に向けて放った向日葵。
向日葵は太陽の光を浴びて上を向いて育つが、やがて下を向いて自らの子孫のことを考え始め、種を落とす。
その生命の一生を象徴するかのように、まるで剣の連撃は真夜中のクリップライトが机を照らすかのように白い塊を放つ。
斬撃ひとつひとつが細いディバインレーザーのようなもの。
向日葵はだんだんと枯れるように下を向くも、樹下さんには足元に潜られ、間一髪で避けられてしまう。
樹下さんはそのままくるんと前転をして膝を付くと、やがてこちらを向いた。
「なるほど、『型技しか使っていなかったことが手抜きだ』と言ったのは謝罪しよう……」
僕の意図が理解できたようだ。
技に威力の違いはあるが、貴賤はない。
型は威力はないがコンパクトで隙がない。
舞は大技だが後隙が大きい。
要は使い方次第なんだ。
「驚きました。樹下さん、なかなかやりますね」
逃げる一方で反撃のチャンスはないけれど、正直これで倒れて貰いたかったんだけどな。
「だが、大聖女様はまだこちらにいらして一年も経っていないというのに、どうしてここまで刀のことに精通している戦い型ができるのだ……?」
樹下さんも既に答えに辿り着こうとしていた。
「じゃあ、最後といきましょうか」
「まだやられはせん」
「樹下さんは、大典太の8個目の技を知っていますか?」
「8個目?どういうことだ!?大典太の舞は7つのはず……」
光気解放を知らなかったし、やはりこれも知らないか。
僕は光刀を引き、突きの構えをする。
瞬時に爆発のごとく光に満ち溢れる。
その時、僕のウィッグが凄まじい光気の勢いに飛んでいってしまった。
「っ!?」
「その姿っ……!?」
……まあいいか。
どうせ僕は誤解を解くつもりだったんだ。
「光刀・奥義――日輪――」




