第231話 異変
「お、お義母さんっ!?まだ入ってるよ!」
「いいじゃない。マークばかりずるいわ!折角なんだから、家族で入りましょう?」
「ちょ、ちょっと……!僕は男だって……!」
僕のことなどお構いなしにお義母さんとシェリー、セフィー、最後にメルヴィナさんが入ってくる。
「女同士なのだし、野暮なことは言わないで、ソラちゃん」
……あくまで僕を女扱いする気だ……。
家族とはいえ義理なのだから、僕だって反応するものはするんだぞ……。
「お義母様、逃げないでくださいね?逃げたら、本当にお義母様にしてしまいますよ」
…………ヒェッ。
「おばあさま、お背中お流しします」
「じゃあ、洗いっこしましょうか」
「では、シェリルお嬢様は私が」
わいのわいのと愉しそうな声を聴きながら、僕はそっぽを向いていた。
僕は湯と共に沸いて出てきた煩悩と、沸き上がる分身を沈めるべく「清浄」と唱える。
劣情とともに少しのぼせていた体も治まって、まるで賢者のような気分になっていた。
「隣、失礼するわ」
「ひああっ!」
お義母さんが隣に来ただけで、僕の賢者は崩壊した。
「それで?ソラちゃんは恋の悩み?」
「ど、どうして……」
「マークから聞いたのよ」
やっぱりお義父さんの差し金か……。
あの時、一緒に上がっていればよかった……。
「お義母様、恋のお悩みですか?」
続いて義娘達、最後にメルヴィナさんが入ってくる。
「……僕は、エリス様を含めて色んな人から告白のようなものをされました。忙しいというだけでもっともな理由もなく、僕は皆さんの手心によって返事を求めてこなかったおかげでここまで何の回答も用意せずにのうのうとしていられました」
涼花様に至っては、僕が一方的に知ってしまっている。
隠しているとはいえ、不誠実極まりない。
「5年以上も他人の愛情を知らなかったんだもの、無理ないわ。何も食べていないと胃がびっくりするように、心もびっくりしちゃうものよ」
愛情に飢えている……か。
僕に愛情を向けていたお祖母ちゃんだって忙しい人だったし、普段叔父さんの家に住んでいるから奏家には時より来るくらいで、毎日会っているわけでもない。
ただお祖母ちゃんが来る日だけは、僕の安全な日。
いわば愛情記念日だった。
「母と姉くらいしか女性というものを見てこなかった僕にとって、この世界の女性は皆さんとても魅力的に映るんです。だからこそ僕はこの世界の人達に不義理なことはしたくないし、正直こうして面と向かって裸を見せ合うようなことはやりたくないんですよ……」
「お義母様は、殿方でもやはり可愛いですね」
「何言ってるの、もう……」
「『あそこの方は狂暴なのに……』」
「メ、メルヴィナさんっ!へ、変なナレーション入れないでください!」
下半身を『清浄』で押さえつけながら怒る。
「お義母様は、前に進みたいのですか?」
「……進んでいいのか、分からないんだ」
「ならそれを、言葉にしてみるのはどうでしょうか?」
メルヴィナさんが珍しく真面目な顔でこちらを見つめてくる。
真面目にしていると、メルヴィナさんって出るとこ出ていて魅力的なんだよな……。
僕は熱くなる顔を冷ますことを諦めた。
「言葉に……?」
「ソラ様は相手にお返事をしていないことに悩まれておいでですが、ソラ様ご自身は回答を持っておられない。ならば、途中経過をお相手に伝えるのですよ」
「それって、お互いになんの解決にもなっていないような……?」
「恋愛は、解決を求めるものじゃありませんよ、お義母様」
「そう……なの?」
「告白した人からすれば、返事がない期間が長くなればなる程に心が辛くなるんです。ですから、定期的に今の気持ちを伝えてあげればいいのですよ」
「まだ脈があるとか、そういうものに一喜一憂する。それが青春というものですよ」
「メルヴィナさんだってまだ若いでしょうに……」
「あら……?もしかして私で反応、してしまいましたか?」
わざとらしく前のめりになるメルヴィナさんに、僕は壁際に追いやられる。
それがいけなかった。
「っ……!?」
いつもと違う妖艶なメルヴィナさんに僕は思考が停止し、次の瞬間、僕の目の前に手を置いたとき、僕の足に触れた。
「あふっ……!」
メルヴィナさんは目を徐々に細めて優しく肌をなぞると、僕の異変へと衝突事故を起こしてしまう。
「ふふ、先走るのは関心いたしませんよ、お姉ちゃんは……」
「っ!?」
どくんと、何かよく分からない感覚が開き、僕の異変は更におかしくなってはちきれそうになる。
「メ……」
「め……?」
「メ、メルヴィナお姉ちゃんの、ばかああああっ!」
僕はわけもわからず皆に裸を晒すのは承知の上で、僕はその場を逃げ出した。
その日、僕はメルヴィナさんの謎のお姉さん属性に悶々として寝られなくなってしまった……。




