第227話 通過
「ソ、ソラ様!これにはワケがありまして……!」
どんな弁明をすれば、この状況に説明がつくのか、僕には全くわからない。
「メルヴィナさん、ついに正真正銘の変態に……」
「ご、誤解です!!これは……そう!しばらく使っていないせいかホコリをかぶってしまっていましたので、洗濯をしてからしまっていたのですよ!」
「今思い付いたような言い草でしたけど……」
「そんなことありません!決して私は!!『ソラ様のぱんつ、くんかくんか……』とか!!!そんなこと思っていません!!!!」
言い訳をする度に墓穴を掘っているような気がするんだけど……。
横にいたセフィーはジト目になる。
「……へんたいさん?」
「はうぅっ……!」
純粋無垢なセフィーの一言は結構効くだろうね……。
言われたのが僕じゃなくて良かった……。
いや、これから僕が言われてもおかしくないんだ。
身を引き締めないとね。
「それって、男物の……パンツ、ですよね……?」
理解が既に結論に進もうとしているシェリー。
「こ、これはっ!ええと、御坊っちゃまのものですよ!ほら!ソラ様は男装もお似合いでしょう?」
なにかを察したメルヴィナさんは、必死に取り繕ってくれた。
「ル、ルーク様の……!?」
きゃあと言いながらも少しだけ指の隙間でちらりと見ているのは、怖いもの見たさなのだろうか?
「そ、それよりも、このお二人は?」
「ああ、ええと……。二人は僕の義娘なんです」
「娘……ま、まさか!?お赤飯ですかっ!?」
だから僕がお赤飯なのはどう考えてもおかしいでしょ……。
それにもし産んだならお赤飯はとっくに通りすぎてないとおかしい……って、なに言わせんのさ。
「そもそも、どうして僕が生む前提なの……?」
「こういうのは『お約束』というものですよ。『娘はやらん!』と同じ、一種の通過儀礼みたいなものです」
いや、単にメルヴィナさんがやりたかっただけでしょうに。
通過儀礼どころか、色々と過程を貫通しすぎでしょ……。
「冗談です。明けましておめでとうございます、皆様方。私はメイドのメルヴィナ。ソラ様のお姉ちゃんでもあります!そしてシュライヒ家の御屋敷へようこそ、シェリル様、セラフィー様」
「明けましておめでとうございます。ええと、叔母さま?」
「はぐっ!?」
セフィーの容赦ない一撃。
こうかはばつぐんだ。
「年齢的にはお姉さまでいいと思うよ……」
「ソラ様はお優しい……。やはり、疲れたからだによく効く有効成分ですね」
何言ってんの、本当に……?
「明けましておめでとうございます。ええと、私達のこと……」
「ええ、ソラ様から聞き及んでおります。それよりソラ様、もしかしてお体が優れないのですか……?」
メルヴィナさんは冗談が多い人だけど、メリハリはある人だ。
ここで「おめでたですか?」と言われない辺り、メルヴィナさんにも心配させてしまっていることがよくわかる。
さっき僕の下着の匂い嗅いでいたのは休憩中だろう、多分……。
「あ、ああ……こんな姿でごめんなさい。その説明を含めて、お義父さんとお義母さんのいる前でお話をさせてください」
「承知いたしました。ご主人様と奥様はお仕事中ですので、お呼びしますね」
「いや、仕事の邪魔をするつもりは……」
「いいえ!ソラ様がいらしたら仕事より最優先だと言われておりますから。さ、居間までご案内しますから、そちらでお待ちください」
本当に、お人好し集団だなぁと思いながら、僕はその温かさに甘えることにした。




