第226話 無様
そう息巻いたものの、まさか立ち上がって動くだけで世界が揺れるとは思わなかった。
体を冷やさないようにとエルーちゃんの配慮が見られる水色のズボンタイプの患者衣のようなものに着替え終えたときにはもう立っていられなかった。
ずっとなにも食べず寝ていたのがこんなに辛いことになるなんて……。
「お義母様、本当に大丈夫ですか……?」
「はあ、はあっ……。だ、大丈夫……。体が言うことを利かないだけだから……」
再び立ち上がろうとした僕。
栄養のなさと貧血と諸々……。
貧血って、極まると立ち上がるだけで意識が飛ぶんだね……。
頭が真っ白になって、「あっ、転ぶ」と頭では分かっていても、体は指一本すらも動かせない。
気がついたときには地面に伏している自分がいた。
「お義母様っ!」
「ごめん……私を、トイレに……」
もう僕、きっとトイレとルームシェアするのがお似合いなんだろうな……。
口から漏れかけたお粥を死守しながら、僕は二人の義娘にトイレに連れていかれた。
「ふう……」
吐いている時って、どうしてあんなにネガティブになるんだろうな……。
「この苦しみから逃れよう」と脳に働きかけようとでもしているのだろうか?
一時的な苦しみだというのは頭の中ではわかっているつもりなのに、こんな苦しみを味わうくらいなら死んだ方がマシだと思ってしまう。
こんなの毎日続けていたら、精神の方が持たないかもしれない。
「お義母様、こちらに」
「く、車椅子……?」
「どうしても行くというのならば、これに乗ってください」
「でも、ただの栄養失調だろうし……」
「ただの、ではありません!お義母様がご自分の身のことを案じられないのは私達がよぉ~く、よぉおおおく、知っていますが!お義母様が無理をなさる度に、私達の胸は苦しくなっているんです……」
「お義母様……たまには私達に弱みを見せてください。格好いいお義母様も可憐なお義母様も素敵ですが、私は私達と同じ悩みを持っていて、同じ痛みを知っているからこそ手を差しのべて下さったお義母様だからこそ、大好きなんです」
「シェリー……、セフィー……」
「無様でいい」と、そう言ってくれる家族。
今まで散々無様であることを家族に罵られ、なじられ、嘲笑われ、嫌われてきた僕にとって、そんなことが、そんな家族があり得るのかと不思議でならなかった。
「わかったよ。じゃあワープ陣まで、よろしくね」
僕は車椅子に座ると、二人がゆっくりと押してくれた。
義娘に押されてワープ陣をくぐると、シュライヒ家の僕の部屋へ飛んだ。
「ここが、シュライヒ家……」
「私達のようなものが来ても大丈夫でしょうか?」
「大丈夫。ここの人はみんな優しいよ」
「それは、お義母様だからでは……?」
「そんなことないよ」
すると、セフィーが何やら後ろを向いていた。
「ひいっ!?」
「ど、どうしたの、セフィー!?」
シェリーが気を利かせて僕を後ろに向けてくれた。
「ソ、ソラ様……!?こ、これは……違いまして……!!」
そこには、僕用の男物の下着を手に取るメイドのメルヴィナさんの姿があった。




