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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第29章 雨露霜雪
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第224話 傷心

「……っ……」


 この声は、誰だろう?

 僕に優しくしてくれる人……。

 僕をよく抱き締めてくれる人……。


「お祖母……ちゃん……?」


 これは夢だろうか?


 定まらない焦点をあわせていくと、しだいにぼやけていたシルエットが浮かび上がってくる。


「ソラ様……」

「エルー……ちゃん……」

「ソラ様!」


 ああ、色々と思い出した。


「よかった……本当に、心配したんですよ……!」

「ごめん……でも……」

「大丈夫です、ソラ様……。ソラ様の痛み、私に全部……預けてください」

「うぇっ……うぁあ……」


 エルーちゃんは何も聞かずに僕を力強く抱きしめてくれる。


「ぐすっ、お父さん……お父さん……ごめんなさいっ……うっ、うわああああんっ!」


 僕はまた情けない顔で泣きついている。

 だけどこれは僕一人では耐えられなかった。

 本当に情けない。




「――僕ね、昔はお父さんのことを尊敬していて、憧れだったんだ」


 ぽつぽつと、エルーちゃんに話す。

 エルーちゃんは僕と同じ泣き腫らした顔ではあるけれど、僕の話を頷きながら聞いてくれた。


「お母さんにお金を稼ぎ続けなければうちが潰れると脅されて、僕はそれが怖くてただ言いなりになっていればいいと思ってた。でもそのせいで僕はお父さんに嫌われちゃった……」

「ソラ様……」


 結局、僕は楽な方に逃げていただけだ。

 その結果お父さんに嫌われただけ。

 だからただの自業自得。


「ぐすっ……違うわ、ソラ君……」


 お姉さんの声がして振り向くと、ここがさっきいた場所ではないことに気づく。

 僕、いつの間に天庭に……。

 そして、ふわりと宙に浮くエリス様の姿がそこにあった。


「エリス様……」

「聖女は皆あっちにいい思い出がないから、あまり向こうのことを言うのは止めるようにしているんだけど……」


 エリス様が浮かびながらこちらに来ると、僕の顎をそっと撫でた。


「ハジメ、今離婚調停中よ」

「えっ……」


 エリス様の手は少し震えていた。


「ハジメは最初から法で争う気だったのよ。元々あの女もバカンス先で腐るほど浮気していたみたいだし、証拠集めには苦労しなかったそうよ」


 やっぱりそうだったんだ……。

 姉もよく男を連れてきていたし、そういう家族なのだろう。


「毎日遅く帰っていたのは、証拠集めに奔走していたから。次第に証拠が揃っていくと、怒りに震えていった。そしてあの日。酔っていた彼はソラ君を見たときに、まるであの女達に荷担するように見えてしまったそうよ。半分は八つ当たりだから、到底許せることではないけどね……」


 僕、お父さんのこと何もわかってなかった。


「それ以来、ハジメはソラ君に当たったことを申し訳なく思い、ソラ君と距離を置いたのよ」


 僕、嫌われていたわけじゃなかったんだ……。


「裁判の準備の傍ら、あなたのことも探しているそうよ。息子の親権を取りたいって弁護士に言っていたわ」

「……」

「エリス様は……向こうの世界に行けるんですよね?」

「……なんでも言って」

「僕のことは死んだと伝えてもらえますか?」

「……それで、本当にいいの?」

「はい。お父さんには僕のことなんて忘れて、今度こそ幸せになって欲しいですから」


 親権を取るのは難しい。

 それにもういない人間の親権まで取らなくていい。

 お父さんの気持ちは伝わったから、もう大丈夫。

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