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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第28章 修身斉家
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閑話62 安らぎ

【エルーシア視点】

「「梓様!」」

「大丈夫よ。私がいなくなっても、ゼノンちゃんや(うた)ちゃんがいるでしょう?」

「そ、そんな……お婆様!」

「嶺家には、まだお母様が必要です……」

「ふふ、私も十分生きたもの。あなた達なら大丈夫。エリスには感謝しているわ。エリスには焚き付けておいたけれど、腹をくくったみたいだし。まぁ……ソラ君に会えないのは少し残念だけれど」

「おばあさま!」

「でもそうね……もしソラ君がこっちに来たら、貴女達はあの子を癒してあげて。それがこっちの世界に来てから心残りだったことだから――」




 ――読み終えた本をしまいます。

 やはり第92代聖女の嶺梓様も、ソラ様のご家族のようでした。

 そしてエリス様は長年悩まれてから、ソラ様を連れてこられたことが分かります。

 そんなエリス様の、楓様の、梓様の、色々な方々の思いの込められたソラ様に私はお仕えしているのですね……。

 私も一層気を引き締めなければなりません。


「エルーシア!」

「カーラ様!?」


 ばたんと扉が開かれて、寮の私の部屋の扉が開かれました。

 こんなに切羽詰まったカーラ様を見たのは、はじめてです。


「はぁ、はぁ……落ち着いてよく聞きなさい」

「は、はい!」

「ソラ様が、お心を病まれ意識不明になりました」

「えっ……」


 私は頭が真っ白になりそうでした。

 どうして……?


「今は天庭にてシルヴィア様とエリス様が看病なさっているそうです……」


 その後、何を言われたのかあまり覚えていませんでした。

 カーラ様は気を利かせてくださって、事実をメモにして手渡ししてくださったようです。


 五国会議はサクラ様が引き継いでおくとのことでした。


「ソラ様……」


 演劇の時のトラウマを引きずり出してしまったのでしょうか?

 それとも、あれ以上のトラウマもあるのでしょうか?


<どうした相棒?何か悩みか?>

<話で良ければ私達が聞くわよ>

<玄武様、テティス様……>


 私はお二人に話をすることにしました。


<そう、ソラが……>

<……相棒の窮地や。ちょっとエリス様に掛け合ってみるわ>


 玄武様がエリス様と取り次いでくださいました。

 雨は激しくなり、嵐になっています。


<エリス様が相棒ならいいて言ってはった。天庭へ繋ぐで――>


 私はそのお言葉とともに、意識が真っ白になっていきました。


 眩しさが消え目を開けると、私は再び天庭にいました。


「うっ……うぅ……」


 泣いていらっしゃるのがエリス様。

 それにつられるようにシルヴィア様も泣いておられました。


「ぐすっ……エルーシア、お願いよ。ソラ君の心を癒してあげられないかしら?」


 ソラ様は、起きておられましたが、目は虚ろで焦点があっておりませんでした。


「ソラ様は、どうしてお心を病まれたのですか……?」

「私が、ぐすっ、主に代わり説明する……」




 シルヴィア様に教えていただいたことは、想像を絶していました。

 日常のように殴る蹴る怒鳴るが蔓延る家で唯一静観を決めていたお父様。

 そんなお父様はソラ様が多く稼いだことをきっかけに変わってしまったそうです。

 実の親に「お前なんか生まなきゃよかった」なんて、そんなことを言われて殴られていたなんて……。


 私はいかに幸せに生きてきたのだろうということを思い知らされました。

 ソラ様の長年の心の痛みに比べれば、たかが一度死にかけたことなんて些細なものなのだとようやくわかりました。


 そして気がつくと、私もまた涙が止まらなくなってしまいました。


「ソラ様……」


 私が抱き締めると、「ぼくはごみです、ごめんなさい、おとうさん……」としきりに呟いておられます。


 私はこのお方のために、何をして差し上げられるのでしょうか?

 私には、祈ることくらいしかできません。

 抱き締めて差し上げることくらいしか、できません。


「どうか、ソラ様に安らぎをお与えくださいませ……」


 隣にいらっしゃる神様に縋るかのように、強くソラ様を抱き締めました。


「お祖母……ちゃん……?」


 楓様、どうすればこのお方を癒して差し上げられるのでしょうか?

 どうか、私にお力をお貸しください……。

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