閑話61 裏切者
【嶺神流視点】
「私のためにソラ様が、お言葉を発してくださるなんて……」
私は歓喜に震えていた。
これは私の歓喜ではない。
種の歓喜。
我が一族が楓様に名前を呼んでくださったように。
「神流、下半身じょばじょば」
「ソラ様の言葉に濡らして、一体何を妄想しているのかしら?はしたない」
「してないわよ!貴女達こそ、何変なこと考えてるのよ、この変態親子っ!」
お、思わず確認してしまったじゃない……。
これだから変態血族派は嫌なのよ……!
主の認めてくれた獣人種という種の維持のために繁栄する保守派と違い、主様と同じ人種族に近づくためにいかに多くの人間と交わって子を成すかを大事としている血族派は、「いかに淫乱であるか」が大事な要素になっている。
本当に、下品な宗派よ……。
「ソラ様から聖獣獏様をお借りしているのですから、気を引き締めて行きますよ」
「あ、貴女に言われなくとも、分かってるわよ!」
いつも下品なことしか考えていないくせに、どうしてこんな時だけまともなのよ……。
<獏様、お願い致します>
<……>
獏様に透過術をかけていただく。
獏様は無口なお方だ。
「おおーっ」
「これがスケスケの術……」
「下着まで透明になっているのでしょうか?」
「余計なこと言ってないで、行くわよ」
東国の門の目の前にやってくると、門が閉まっていた。
門前払いを受けていた商人のもとへ向かってみる。
「おい、どういうことだよ!誰も国に入れないなんて、聞いてないぞ!」
「新しい主のご命令だ。お前達には特別に教えてやろう!何人たりとも、新しい王国に入るべからず、ってな。この国は鎖国したんだ。とっとと帰んな!」
新しい主?
「ど、どういうこと……?」
私達は一度門から離れ、木に隠れる。
「ハメられた……」
「お母様、今度ハメられるのは私の役目です。年増は出張らないでください」
「甘いわね、忍。ソラ様がそういうご趣味だってこともあるわ。それに、面倒臭い処女より経験者の方が良いこともあるのよ」
「お優しいソラ様が、他人が愛した人をとると思う?この使用済みめ……」
「急に何の話をし始めるのよ……」
それに、ソラ様は女性でしょうに……。
「五国会議の王家が出払ったタイミングを狙って、国を鎖国したということは、実質国を乗っ取ったということよね……?」
「そんな権限があるのはただ一人……」
「まさか……!?」
王家が出ている間は、宰相が国を仕切る決まりになっている。
「裏切り者の闇商人サイドのトップは、宰相である可能性が高い……」
ソラ様はここまで読んで、私達に「手は出さずに調べるだけにとどめろ」と言ってくださったのか。
確かにこれを制圧するのは、私達の手に余る……。
「行くわよ。嶺家の誇りにかけて、一つでも多く情報を持って帰ること」
お母様、お父様、ソラ様がお助けくださるまで、耐えていてください……!




