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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第3章 暗中飛躍
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第23話 逓送

 周りの光が消えると、王城に戻っていた。


「ソラちゃん!」

「大聖女さま!」


 駆けつけたサクラさんに抱き締められた。

 へっ!?ちょっと!?


「もう、心配したんだからっ!」


 葵さんの件で感傷的になっていたのは僕だけではなかったらしい。


「……ごめんなさい」




 僕はアイテムボックスから預かった荷物を出し、状況報告を済ませる。


「まさかバフォメットが暴れていたとは……」

「大聖女さま、解決していただき、誠にありがとうございます」


「それで、荷物は持ってきましたが、今から各新入生に届けるんですよね?入学式に間に合うんですか?」


「……そ、それは……」


 そう、入学式は明後日だ。

 とてもじゃないけど間に合うとは思えない。


「住所のリストはありますか?」

「こ、こちらです」


 見事に分散している……。


 僕はアイテムボックスから『アイテム袋』を取り出す。

 アイテムボックスほどは格納できないが、異次元空間にしまえるクラフトアイテムだ。

 プレイヤーは使うことはないが、従魔やハープちゃんみたいな召還獣に持たせると、勝手にアイテムを集めてくれるという使い道があった。


「そ、それは!」


「聖女さまのみクラフトの許された、伝説の『アイテム袋』!!」


 聖女しか作れないのは魔力が足りないからだろう。

 この『アイテム袋』のクラフトには魔力が200必要だ。

 レベルカンストしている聖女は普通に作れるが、魔力量が200に満たない人は作ることすら叶わない。


「南地区のここからここまでは私がやります。西地区のここからここまでサクラさん行けますか?」

「わかったわ」


 地図を指し示して割り振りを決める。


「すみません、皆さん!協力してください!『アイテム袋』を1人1つずつ渡しますので、分担して届けてもらえませんか?」

「はいっ!」

「任せてください!助けていただいた分、張りきっていきますよ!」


 みんなやる気になってくれてよかった。

 僕は『大精霊の大杖』で素早く口上を唱える。


『――闇を照らす勇敢なる聖獣よ』




 流石に、街中で龍は迷惑になる。




『今ひと度(われ)に力を貸し与えたまえ――』




 ここは、壁伝いに走れる子にお願いしよう。




『――顕現せよ 聖獣フェンリル――』




 バウッ!と短い雄叫びとともに聖獣フェンリルが次元の裂け目から現れた。

 額に赤いルビーが特徴的で、軽トラック程の大きさの白い獣だ。


 「リル、お願い!」

 「バウッ!」


 フェンリルのリルは宙を舞うかのように跳び跳ねると、屋根を伝って移動する。


 二日前なのに制服が届かなくて困っているだろうから、早く届けないと。


 僕はリルに強化魔法を施し急いでもらった――――






「――――大聖女さまっ、ありがとうございます!」


 新入生の子に軽く手を振りながら、次へと向かう。

 

 半分くらい終わっただろうか?

 最初はサインを求められたが、流石にサインする猶予はないと伝えると、みんな握手を求めてきた。

 果たして早くなっているのだろうか……わからなくなってきた。


 龍とフェンリルでの移動は早すぎて寒く、だんだんと手が(かじか)んでくる。

 僕はマフラーを取り出して巻き付け、次へと向かう―――






――――夜。


 やっと最後だ。聖女院の僕とエルーちゃんの分で僕のノルマは終わりだ。


「ソラ様!」


「はぁっ、はぁっ、た、ただいま」

「お帰りなさいま……そんなに急がれてどうしたのですか!?」

「はぁっはぁ……はいこれっ、学園の……はぁっ、制服。エルー……ちゃんの分」


 半ば押し付けるように渡す。


「あ、ありがとうございます!」

「はぁっ……はぁ……ごめん……もう限界かも……」


 寒いしもう魔力も使い果たした。


「えっ」


 学ばないなぁ僕は……。

 また心配かけてしまうなと頭でわかっても、もう僕には倒れることしかできなかった。

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