第23話 逓送
周りの光が消えると、王城に戻っていた。
「ソラちゃん!」
「大聖女さま!」
駆けつけたサクラさんに抱き締められた。
へっ!?ちょっと!?
「もう、心配したんだからっ!」
葵さんの件で感傷的になっていたのは僕だけではなかったらしい。
「……ごめんなさい」
僕はアイテムボックスから預かった荷物を出し、状況報告を済ませる。
「まさかバフォメットが暴れていたとは……」
「大聖女さま、解決していただき、誠にありがとうございます」
「それで、荷物は持ってきましたが、今から各新入生に届けるんですよね?入学式に間に合うんですか?」
「……そ、それは……」
そう、入学式は明後日だ。
とてもじゃないけど間に合うとは思えない。
「住所のリストはありますか?」
「こ、こちらです」
見事に分散している……。
僕はアイテムボックスから『アイテム袋』を取り出す。
アイテムボックスほどは格納できないが、異次元空間にしまえるクラフトアイテムだ。
プレイヤーは使うことはないが、従魔やハープちゃんみたいな召還獣に持たせると、勝手にアイテムを集めてくれるという使い道があった。
「そ、それは!」
「聖女さまのみクラフトの許された、伝説の『アイテム袋』!!」
聖女しか作れないのは魔力が足りないからだろう。
この『アイテム袋』のクラフトには魔力が200必要だ。
レベルカンストしている聖女は普通に作れるが、魔力量が200に満たない人は作ることすら叶わない。
「南地区のここからここまでは私がやります。西地区のここからここまでサクラさん行けますか?」
「わかったわ」
地図を指し示して割り振りを決める。
「すみません、皆さん!協力してください!『アイテム袋』を1人1つずつ渡しますので、分担して届けてもらえませんか?」
「はいっ!」
「任せてください!助けていただいた分、張りきっていきますよ!」
みんなやる気になってくれてよかった。
僕は『大精霊の大杖』で素早く口上を唱える。
『――闇を照らす勇敢なる聖獣よ』
流石に、街中で龍は迷惑になる。
『今ひと度吾に力を貸し与えたまえ――』
ここは、壁伝いに走れる子にお願いしよう。
『――顕現せよ 聖獣フェンリル――』
バウッ!と短い雄叫びとともに聖獣フェンリルが次元の裂け目から現れた。
額に赤いルビーが特徴的で、軽トラック程の大きさの白い獣だ。
「リル、お願い!」
「バウッ!」
フェンリルのリルは宙を舞うかのように跳び跳ねると、屋根を伝って移動する。
二日前なのに制服が届かなくて困っているだろうから、早く届けないと。
僕はリルに強化魔法を施し急いでもらった――――
「――――大聖女さまっ、ありがとうございます!」
新入生の子に軽く手を振りながら、次へと向かう。
半分くらい終わっただろうか?
最初はサインを求められたが、流石にサインする猶予はないと伝えると、みんな握手を求めてきた。
果たして早くなっているのだろうか……わからなくなってきた。
龍とフェンリルでの移動は早すぎて寒く、だんだんと手が悴んでくる。
僕はマフラーを取り出して巻き付け、次へと向かう―――
――――夜。
やっと最後だ。聖女院の僕とエルーちゃんの分で僕のノルマは終わりだ。
「ソラ様!」
「はぁっ、はぁっ、た、ただいま」
「お帰りなさいま……そんなに急がれてどうしたのですか!?」
「はぁっはぁ……はいこれっ、学園の……はぁっ、制服。エルー……ちゃんの分」
半ば押し付けるように渡す。
「あ、ありがとうございます!」
「はぁっ……はぁ……ごめん……もう限界かも……」
寒いしもう魔力も使い果たした。
「えっ」
学ばないなぁ僕は……。
また心配かけてしまうなと頭でわかっても、もう僕には倒れることしかできなかった。




