閑話58 嶺神流
【嶺神流視点】
「本家が辛酸をなめさせられてきたのも、これまでだ……」
「分家の分際で、大きくなりすぎたのだ……」
「今こそ、粛清されるべきだ!」
「静粛に!」
お母様の一言でぴたりと止まる。
「神流、これは本家の総意だ」
獣人のお父様の重い声が響く。
「本家の未来はお前達にかかっている。心してかかれ」
「はっ!」
……私達はもう、後戻りは許されない。
「にしても、重い任務ですねぇ……」
「あの警備厳重な聖女院で静馬殿下を拐うなんざ、無謀ってもんじゃないか?」
「お黙り。誰が聞いているかも分からないのよ」
「へいへい。だが若様、俺達の命運を握ってんのはあんただ。下手な命令をするってんなら、俺はあんたとはいえ命令を破るかんな」
お父様の言うことには従うが、私の言うことは聞いてくれない。
威厳がないことは承知の上だ。
この試練こそ、私が皆から認められる第一歩なんだから。
「分かってるわ。私はぬるま湯に浸かっている分家の忍になんか、負けるわけにはいかないのよ……!」
聖女院には何重にも障壁魔法がかけられており、それを一つでも破って侵入すると聖影に見つかるという仕組だ。
「ここからはスピード勝負だ。行くよ」
初代聖女様の形見である『水面のクナイ』に魔力を通すと、障壁は水面のような膜となり、通過できるようになる。
「やがて聖影が来る。急ぐわよ!」
静馬殿下の部屋は事前調査で把握している。
「止まれ、侵入者!」
「くっ!」
あれは、『樹陰』の連中……!
こんな時に、厄介な相手を引いてしまったものだ……。
「ここは任せるわ」
私は一人中に入ると、静馬殿下は眠っていた。
「やっぱり来た」
「っ!?」
存在に気付いてクナイを合わせると、ガキンとクナイの弾ける音がする。
すぅ……と影から現れたのは忍。
「『梛の来賓で狙ってくるなら、まだ若く訓練の浅い静馬殿下を狙うはず』」
「誰の読み?」
「お母様」
あの天才くノ一、嶺杏の差し金か……。
考えていることは本当にどうしようもない分家の連中だが、私のお母様もあの忍に大変苦労させられたほどなのだ。
なめてかかるわけには行かない。
「既にお母様がルーク様とサクラ様に報告済み。貴女達はもう終わり」
「忍!邪魔しないで!」
「神流、あなた大聖女様に泥を塗るつもり?」
突如光魔法で照らされる。
「ソ、ソラ様っ!?」
「しまったっ!?」
まさか、大聖女様に見つかるなんて……!
作戦は失敗だ。
『影隠密』で姿をくらます。
「光の束縛」
「ぐぅっ!?」
すぐさま闇魔法は解除させられ、私はあっという間に拘束させられる。
「誰か分からないけど、ごめんなさい……眩惑」
「くっ……私は……」
夢破れて、私の意識は消えていった。




