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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第27章 鸞翔鳳集
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閑話58 嶺神流

(みね)神流(かんな)視点】

「本家が辛酸をなめさせられてきたのも、これまでだ……」

「分家の分際で、大きくなりすぎたのだ……」

「今こそ、粛清されるべきだ!」

「静粛に!」


 お母様の一言でぴたりと止まる。


「神流、これは本家の総意だ」


 獣人のお父様の重い声が響く。


「本家の未来はお前達にかかっている。心してかかれ」

「はっ!」


 ……私達はもう、後戻りは許されない。




「にしても、重い任務ですねぇ……」

「あの警備厳重な聖女院で静馬殿下を拐うなんざ、無謀ってもんじゃないか?」

「お黙り。誰が聞いているかも分からないのよ」

「へいへい。だが若様、俺達の命運を握ってんのはあんただ。下手な命令をするってんなら、俺はあんたとはいえ命令を破るかんな」


 お父様の言うことには従うが、私の言うことは聞いてくれない。

 威厳がないことは承知の上だ。

 この試練こそ、私が皆から認められる第一歩なんだから。


「分かってるわ。私はぬるま湯に浸かっている分家の忍になんか、負けるわけにはいかないのよ……!」




 聖女院には何重にも障壁魔法がかけられており、それを一つでも破って侵入すると聖影に見つかるという仕組だ。


「ここからはスピード勝負だ。行くよ」


 初代聖女様の形見である『水面のクナイ』に魔力を通すと、障壁は水面のような膜となり、通過できるようになる。


「やがて聖影が来る。急ぐわよ!」

 

 静馬殿下の部屋は事前調査で把握している。


「止まれ、侵入者!」

「くっ!」


 あれは、『樹陰』の連中……!

 こんな時に、厄介な相手を引いてしまったものだ……。


「ここは任せるわ」


 私は一人中に入ると、静馬殿下は眠っていた。


「やっぱり来た」

「っ!?」


 存在に気付いてクナイを合わせると、ガキンとクナイの弾ける音がする。

 

 すぅ……と影から現れたのは忍。


「『梛の来賓で狙ってくるなら、まだ若く訓練の浅い静馬殿下を狙うはず』」

「誰の読み?」

「お母様」


 あの天才くノ一、嶺杏の差し金か……。

 考えていることは本当にどうしようもない分家の連中だが、私のお母様もあの忍に大変苦労させられたほどなのだ。

 なめてかかるわけには行かない。


「既にお母様がルーク様とサクラ様に報告済み。貴女達はもう終わり」

「忍!邪魔しないで!」

「神流、あなた大聖女様に泥を塗るつもり?」


 突如光魔法で照らされる。


「ソ、ソラ様っ!?」

「しまったっ!?」


 まさか、大聖女様に見つかるなんて……!

 作戦は失敗だ。

 『影隠密』で姿をくらます。


光の(シャイニング)束縛(・バインド)

「ぐぅっ!?」


 すぐさま闇魔法は解除させられ、私はあっという間に拘束させられる。


「誰か分からないけど、ごめんなさい……眩惑(ダザルメント)

「くっ……私は……」


 夢破れて、私の意識は消えていった。

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