第212話 野暮
次にやってきたのは南の国の王家、サン家だ。
南の国は精霊族が王家を務めているのか。
「お初にお目にかかります、大聖女ソラ様!イグニスと申します」
この鮮やかな炎のような顔。
いや、顔だけじゃない。
体全体が炎のようなつくりをしている。
これがこの世界の精霊族。
通称をエレメント族といわれる通り、精霊族には輪郭がなく、全体が七大元素のみで構成されている。
このイグニスさんなら火、隣にいるアクアさんは体が水でできている。
体の形や動きを維持するため人間に骨や皮膚があるように、水の精霊は体を構成する水を魔力で皮膚や骨に似たものを作って体を維持しているらしい。
自分の周りにオーラを纏うようなものだろうか?
火の精霊は炎を維持するために常に魔力を炎の燃え種代わりにしているらしい。
注ぐ魔力の濃淡で火の熱さが変わるらしく、こうして握手しても特に暑く感じないようにできるみたいだ。
科学的にどういう仕組みでそうなっているのか全くわからないけど、この異世界で科学だなんだというのは野暮というものだろう。
それよりも、その二人を守護しているかわいいかわいい存在に僕はうちひしがれていた。
「あらあら、うふふ」
僕の熱いまなざしに気付いたアクアさんは、僕のもとに来ると、こう言った。
「ソラ様、南の国にいらっしゃれば小人族と戯れることができますよ」
「行きます!!」
僕は食いぎみに反応してしまう。
「来年、絶対……!!!!」
何がなんでも行こう。
次に来た人達は和服に身を包んでいた。
東の国、梛の国の人達だ。
「お初にお目にかかります、大聖女様。私は弥。隣におりますのが、妻の青葉です」
「青葉と申します。ほら、大聖女様にご挨拶なさい」
「岬……」
「静馬ともうします!」
なんだか聞き馴染みのある名前達に、東の国の洗礼を受けた気になっていた。
「奏天と申します。皆さん、よろしくお願いしますね」
「だいせいじょさま!あくしゅしてもよろしいですか?」
「いいですよ」
静馬君はなんだか元気のある可愛らしい男の子だ。
僕の手を取ろうとすると、パシンと岬ちゃんが僕の手を弾いた。
「貴女が噂の大聖女ねっ!貴女には静馬はやらないわよ!」
「ちょっと、岬!?」
いきなりの物言いに僕もびっくりした。
「ご、ごめんなさい……」
「お兄ちゃんはおろか、静馬にまで手をつけようとしているなんて、許せないっ!」
「……お兄ちゃん?」
「そうよ!樹下お兄ちゃんに手を出したんでしょ?」
「なっ!?ご、誤解ですっ!!」
「滅多なことを言うんじゃない、岬!樹下からはシエラ様が助けてくださったと言っていたんじゃ!」
「はぁい」
やっぱり王家には伝わってるのね、シエラのことは。
護衛やメイドさんは今ここに居ないのが本当に救いだ。
「なんだか面白そうな話ね」
「いや、樹下さんにはもう会いたくないんですよ……」
「本当に何したの?ソラちゃん……」
「……黙秘します。これだけは絶対に言いたくありません」
「樹下って確か涼花ちゃんの師匠よね?」
えっ……?
「そ、そうなんですかっ!?」
思いがけないところで縁があったとは……。
そんなことを話していると扉が開き、聖国の面子もやってきた。
「お待たせいたしました、皆様」




