第210話 調教
昨日はあの後夕食を取ってからサクラさんの体調に気を遣って解散となった。
「おはようございます、ソラ様。お着替えいたしますね。まずはお下着から……」
「じ、自分で着替えますからっ!」
どうして僕のメイドさんは性別を知った上で着替えさせてくるんだろう……。
「シスカさん、終わったのであとはお願いします」
インナーも付け大丈夫になったところで他のメイドさんも呼んでもらいおめかしが始まる。
エルーちゃんでないのは、来賓に涼花様がいるからだ。
僕のついた嘘の管理までされているというのは聖女院様々というかルーク様々というか……。
むしろ余計な気を遣わせてしまい、もうルークさんには脚を向けて寝られないな……。
「昨日と違うドレスなんですね……」
まるでカーテンのように薄い緑が入った白いドレスは自然との一体感を表しているようだ。
「ソラ様を着飾ることこそ私達の本望ですから!」
シスカさんに続いてうんうんと頷くメイドさん達。
……楽しそうで何よりだよ。
着替えて昨日の部屋に着くとサクラさんとカーラさん、それに護衛のアレンさんがいた。
「今日は三人なんですね」
「変ないざこざを起こさないためよ」
「……なるほど」
「それがわかっているのなら連れてこなければ良かったのでは?」とも思ったけど、僕も別に会いたくないわけではなかったからな……。
……なんか今僕ツンデレみたいなこと思ってなかった?
サンドラさんにつられたんだろうか?
「さっそく一グループ目が来たわよ」
がちゃりと扉が開けられると、真っ先に来たのはセイクラッド王家だった。
「……げっ」
げって……。
サクラさんでも苦手な人はいるんだな……。
「ハイデンさん、セルマさん、お久しぶりです」
西の国セイクラッドのハイデン・セイクラッド王とセルマ・セイクラッド王妃だ。
「ソラ様、春ぶりでございますね。そしてサクラ様、この度はご懐妊誠におめでとうございます!」
「ありがとう」
「アリシア王女も元気そうで何よりです。そちらの方は?」
「私の婚約者のヴィッセルと申します」
「あ、あのっ!お会いできて光栄です、大聖女様!」
手を取ってくるヴィッセル君はまだ年相応の男の子という感じで、賢いアリシア王女と違い婚約者というものが良くわかっているとは思えない。
……勝手に僕に下心を向けないで欲しいし、それを見たアリシア王女も勝手に嫉妬しないで欲しい……。
「婚約者の躾がなっていないぞ、アリシア」
「アール王子にエドナさん!」
「久しいな、姉貴!」
「ソラ様、お久しぶりでございます。その節はありがとうございました」
「その後はいかがですか?」
「妃教育があり毎日大変ではございますが、とても充実しております」
妃教育は受けつつも、メイドとしてのお世話もしたいと進言したそうで、今は大忙しだそうだ。
へりくだる癖は抜けないそうだが、それ以外のところはメイドとしても優秀だったからかそこまで苦でもなかったそうだ。
「くぅっ……まさかお兄様に正論をいわれるなんて……」
「ふっ、見直したか?」
そういう余計な一言が要らないんだと思うよ……。
「私は別に躾られてはいませんよ?むしろ、毎夜躾ているのはどちらでしたかしら……?」
「エ、エドナ……」
アール王子の首もとを撫でるエドナさん。
王子の趣味なのかわからないけど、なんかドSみが以前よりも増してないか……?
「全く、そういうことを言わなければ格好いいのですが……」
「そ、そうなのか……?」
周囲ではなくエドナさんに格好をつけたいとなっている点、アール王子が大きく成長したところだろう。
「……驚いたわ。アールがまともだなんて……」
「ソラ様、一体何をされたのですか?」
サクラさんもカーラさんも酷いな……。
「守る者のために変わったということでしょう」
あの場に同席していたアレンさんは分かっている。
僕も同意して頷く。
「姉貴もアレン殿もよく分かっているな!流石はおとむがむがっ……!」
「余計なことを言わなければ、満点なのですけれど……」
エドナさんの口を塞ぐタイミングが完璧すぎて助かる……。
「エドナさんはどうしてアール王子のことを好きになったんですか?」
「殿下は、何事にも一生懸命なんです。よく空回りしますけれど、でもそういうお茶目なところも含めて殿下のいいところというか……」
惚れた弱みというやつなのか、それともエドナさんがドSなだけなのか。
「ふふふ」と嗤うエドナさんの真相は分からず、僕は少し恐怖を覚えるのだった。




