第209話 正装
肩はおろか手も丸見え、右脚もスリットで見えているようなドレス。
僕では絶対に着こなせないし、これだけプロポーションに自信がないと着たいとも思えないのだろうな……。
涼花様のドレスを見るのは二度目だが、やっぱり見慣れない姿にどきどきしてしまう。
「さ、中へどうぞ」
そう言って後ろを向いて案内したとき、僕は思わずぎょっとした。
背中もV字に出てる……すごい衣装だな。
「うふふ、涼花ちゃんお似合いでしょう?」
奥にいたのはサクラさんとそのメイドのカーラさん、それにエルフ族と思われる二人の女性。
「サクラさんが用意したんですか?」
「ええ、涼花ちゃんなら着こなせると思って」
確かに、こんなにセクシーなドレスはサクラさんやカーラさんを除けば、リリアンナ王妃やオフィーリアさん程の人達でないと着こなせないのかもしれない。
「私の話はいいですから……」
「そんなことないわ!ソラちゃんには是非みんなの感想を言って欲しいわね」
僕が男と知っていてこういう意地悪するんだもんな、サクラさんは……。
「りょ、涼花さんは素敵ですよ……」
取り繕ってにこやかにそう答えたが、僕の邪念が顔に載ってないか少し不安だった。
「あ、ありがとうございます……」
涼花様も恥ずかしかったのか、手で顔を覆って真っ赤にしていた。
珍しいこともあるもんだと思ったけど、そういえば涼花様の好きな人は僕なんだった……。
いや、涼花様は別に男の僕が好きなわけではない。
あくまで聖女としての偽りの私が好きなのだろう。
そこは履き違える訳にはいかない。
「ええと、そちらのお二人は初めましてですよね?」
「申し遅れました。ジーナ様の妻、ディアナと申します」
ディアナさんは確かもともと聖女院で働いていた専属メイドさんだったんだよね?
なんだか全てを包んでくれるかのようなお母さんというような印象だ。
「ほらサンドラ、挨拶なさい」
「……サンドラです」
むくれているこの女性が、ジーナさんのお子さんだ。
「奏天と申します。よろしくお願いします」
ぷいとそっぽを向くサンドラさん。
僕、初対面本当に嫌われやすいな……。
「ごめんなさい、ソラ様……。サンドラ、お行儀が悪いのは駄目よ」
「いえ、どうやら私は嫌われやすいみたいですから、気にしないでください」
「そ、そういうつもりじゃ……」
「ソラちゃん、それは考えすぎよ。サンドラは単に人見知りなだけ」
「所謂ツンデレというものですよ」
「ディアナお母さん!」
むっ!と怒るサンドラさんは年相応とは思えない子供らしい雰囲気がある。
「気持ちはわかるけれど、そんなにツンツンしていては、明日から大変よ?」
明日は王家との面会。
ハーフエルフはハインリヒ家からも嫌われていることを思い出した。
そっか、自分を守るために彼女も必死なんだ……。
「ご、ごめんなさいっ……!神経質な話題にしてしまってっ……」
「もう、ソラ様のせいではないでしょう?ほら、泣かないの!」
自分のことも大変なのに、サンドラさんは僕を気に掛けてくれる。
やっぱりこの人もいい人だ。




