第206話 氾濫
「加護ぉ……?」
「はい。リッチがいつまた来るかわからない現状、一人ずつでも力を付けないといけないんです」
「リッチ……?ああ、なんや告げてたな」
僕はリッチとエリス様との約束について玄武に話すことにした。
「うーん……なる程な。ま、ええか!」
「じゃあっ!」
「よし、女、名は何なん?」
「え、エルーシアです!」
「ワイと勝負や!水使いとして相応しいか見たる。ハンデとして、テティスも一緒でええで!」
「やっぱり、そうなるのですね……」
「私達のコンビ、しっかり見せ……るわよ!」
もう口調、無理しなくてもいいと思うんだけど……。
「私達はこちらに避難しましょう」
「そんなに激しい闘いになるんですか?」
「まあ、多分……?」
「多分て……」
僕の時は一方的だったし、自信はない……。
「じゃ、いくで!こっから先はお喋りはなしや!」
玄武と名乗る青年はまるで炎のごとく光り輝く。
光から顔を出したのは、まるで巨大な宝石。
その鱗はエメラルドに輝き、甲羅は10メートルにもなる。
「グオオオオオ!」
その轟きだけでも嵐が吹き、僕たちをこの空間から追い出そうとする。
「これが、神獣様の本気……!」
「ソフィア会長は予行演習になるかもしれませんから、良く見ていてください」
「っ!?は、はいっ!」
嬉しそうな顔をしてくれるのは会長だけだよ、本当に……。
「グオオオオッ!」
遠吠えをしただけで、まるでここが海かのように大波を生み出している。
玄武と教皇龍ちゃんを見る限り、人の姿を解くと喋らなくなるというより、喋れなくなるのかもしれない。
「エルー!いくわよ!」
「「大寒波!!!!」」
二人はこちらに向かってくる大波を寒気でことごとく氷付けにするが、玄武は向かってくるその冷気を吸い込んでしまう。
「まずい、避けて!」
玄武は吸い込んだ冷気を溜めて1点に纏めると、それをビームのように発射した。
咄嗟に何をするか判断したティスが玄武の光線から避けるようにエルーちゃんを押し倒す。
「くっ……!」
カンストしたエルーちゃんでは正直直撃しても問題ないんだけど、流石にあれを食らうのは僕でも嫌だ。
「エルー、大丈夫?」
玄武に大洪水や大寒波は効かないどころか、自分の力へと変えてしまう。
体力以外のステータスでは玄武を超えているエルーちゃんだが、今まで優先的に練度を上げてきた魔法の相性が玄武とは途轍もなく悪い。
エルーちゃんにとっては課題の多い内容だが、相性の悪い相手といつか直面することになるだろう。
「……氷河の槍!」
そう。
玄武を攻撃したいのなら、物理で殴るしかない。
でも僕としては、彼女なりの回答が見てみたいと思っていた。
もちろんここに来た目的は加護と経験値だけど、戦闘になることは見込んでいたから、それも密かな楽しみではあった。
造り上げた大きな槍は、まるで神話にでも出てくる巨大な
杭のようだ。
それを両杖から計5本の杭を出すと、一斉に玄武に向かって放つ。
これがカンスト水使いの魔法……。
僕でも食らえばただじゃいられないだろう。
「グオア!!」
玄武は首を引っ込めて回転できるからか、案外素早い。
からだを器用に操り、杭の間を間一髪ですり抜ける。
その時、5本の杭の動きが止まる。
「「大雪崩!」」
ドサドサっと落ちる雪崩に頭を打たれる玄武。
その雪と接する面積の多かった玄武は簡単に地に伏せた。
「オオオオ……」
まさか氷河の槍のコントロールをやめてその場に留めて拘束し、そのまま動けなくなったところに上から大雪を降らせて埋もれさせるとは、考えたね……。
「自分、やるやん……」
人化して雪から這い出てきた玄武。
「ほな、ワイも本気出さなあかん」
玄武は両手をパシッと揃えた。
『――海蛇より産み出せし我が血肉よ――』
「「「っ!?」」」
『――今我承りし祝福が全てを溶かす酸の嵐となれ――』
最上級魔法……?
それになんだ、この聞いたことのない詠唱……!?
『――王水氾濫――』




