第21話 聖墓
お茶会が終わると、サクラさんが「ちょっと寄りたいところがあるの」と言ったので3人で行くことに。
珍しく真面目な顔をしていたから、何かあるのだろう。
夕焼けに染まる木々の木漏れ日が鮮やかに照らす、ここはとくに神秘的な場所だ。
「ここは歴代聖女様がお隠れになられた跡、聖墓と呼ばれる場所です」
それぞれの木に立て掛けられた墓石には名前が書いてあり、下には写真が置いてあった。
サクラさんは真っ先に手前にあった墓石に向かうと、手を合わせた。
墓石には「第九十八代 橘葵」と書かれている。
墓石の下には40代くらいの女性の写真があった。
この人が葵さんなのだろう。
僕とソフィア王女も手を合わせる。
「葵さんは私の先輩聖女でね。威厳があって姐御気質な方だったけど、普段はとても優しいの。私もよく可愛がってもらったわ……」
懐かしそうにそう語るサクラさんは寂しそうだった。
「5年前、私が視察で留守にしている間を狙って魔王が来たの」
魔王。エバ聖のラスボスであり、一定期間で復活する敵だ。
「気付くのが遅れて駆けつけた時にはもう葵さんが倒していたんだけど、死に際のダークベノムにやられてしまっていたの……」
ダークベノムはこの間学園長が放とうとしたダークエクスプロージョンの上位互換で、爆発とともに猛毒をばらまく迷惑極まりない魔法だ。
ベノムの猛毒は毎秒250ダメージを受けるというトンデモ理不尽で、猛毒は薬や魔法では治せない。
どんな状態になっていても元に戻す神薬を使うか、回復薬やヒールで20秒耐えれば直るが、HPの最大が999のエバ聖では誤って死ぬこともよくある。
グミ補正がないとHPは低くなるので尚更だろう。
「私がもっと早く駆けつけていれば……」
それを言うなら僕がもっと早くこの世界に来ていれば、葵さんを助けられたのかもしれない。
ゲームの世界なら良いが、ここは現実なんだ。
改めて現実の怖さを知った。
「ソラちゃんは……私の前から突然、いなく……ならないでね?」
振り返ってそう言うサクラさん。
僕でも分かるくらいに弱々しい作り笑い。
愁うサクラさんの脆い部分を垣間見た気がした。
同郷を失う怖さは僕にもある。
この一言は先輩聖女としての助言であり、自分への戒めでもあるのかもしれない。
僕はもう見ていられなかった。
アイテムボックスから赤色の神薬を取り出すと、ちょうど半分の5個を無言で押し付けた。
そしてタチアオイの花も取り出し、墓石の横に植える。
同じプレイヤーとして、そこに言葉は必要ない気がした。
「やっぱり貴方、優しすぎるわ……」
墓石に向かう後ろ姿と、頬を伝う一滴の涙がとても神秘的に感じた――――
聖墓は奥に行くにつれて代目が若くなる。
一番奥の中央に大きな石が立て掛けられているところが初代聖女碑だ。
墓石には『嶺楓』と書かれている。
「嶺楓様。初代聖女さまにしてエリスさまと共にこの世界の安寧を築いた御方です」
「エリスが言っていたのだけど、初代聖女さまは若い時に連れてこられなかったそうで、50代のときにこの世界にやってきたそうよ」
写真は古くなっていたが、70代くらいの写真だろうか?
「……私、父方の家族がこの『嶺』という名字なんです……」
「!?」
名前にもこの顔にも、見覚えしかなかった。
「まさか……!?」
写真に写る人物は、歳が重なって少し違和感はあるけど、僕が知っているお婆ちゃんそのものだった。
「お婆ちゃんは、唯一優しくしてくれた人だったんですよ……。急にいなくなって、どこにいったのかと心配してたのに……」
お婆ちゃんはあの家の良心だった。
今思えば、あの人がいなくなってからあの家は荒れはじめたんだと思う。
「ここにいたんだね、お婆ちゃん……」
墓石にそっと触れる。
いなくなってからはあの有り様だったけど、僕もお婆ちゃんもあの家から解放されたのならそれで良かったんだと思う。
僕たちは聖墓から王城に戻る。
こっちに来てからというもの、涙もろくなっている気がする。
いや、感情が豊かになったのかも。
いじめられている時は感情を出すと相手を刺激してしまうから控えていたような気がする。
「そういえば、私とお婆ちゃんの間が百代空いているのはおかしくないですか?」
お婆ちゃんがいなくなったのはだいたい十年前のはず。当時50歳くらいだから計算が合わない。
「ああ、そういえばエリスから聞いてないんだったわね……。こちらの時間はあちらよりもずっと早く流れているらしいわ。まあ、そもそも世界が違うから、実際に体験していても私達自身はそれに気付けないんだけどね」
以前実際に地球に行き来できると言っていたし、エリス様はそれを体感したことがあるということだろう。
「私だって、もとの世界だと貴方と1つしか歳が違わなかったのよ?」
「えっ!?ええええええ!?」
今日はびっくりすることばかりな気がする。
「まさか、一個上だったなんて……」
「何言ってるの?一個下よ」
………………。
驚きすぎてフリーズした猫のようになってしまった。
「ソラお姉ちゃんって呼んだ方がいい?」
「やめてください……」
もうどこから突っ込んでいいかわからないよ。
王城に戻ると、何やら騒がしくなっていた。
「しまった……」
ソフィア王女が露骨に嫌な顔をしていた。
「ごめんなさい……。お父様達には内緒にしておいたのだけれど、帰ってきてしまったみたいです……」
「大聖女様!聖女様!」
カツカツと歩いてくるこの青年が王様なのかな?
ハイエルフは歳をとるのが遅いとは聞くけれども、ソフィア王女と親子の間柄とはとても思えない。
「初めまして。私、ソフィアの父のファルスと申します」
丁寧な最敬礼だ。
ファルス・ツェン・ハインリヒ王で合ってるかな……?
聖女相手だとフルネームを言ってくれないから、名前を覚えるのにとても困る。
そういう意味でもシエラになった理由はあったかもしれない。
「それより、何かあったんですか?」
「聖女さまのお耳にお入れするようなことでは……」
「困っているんでしょう?話くらい聞くわよ」
ファルス王は頭を下げると、重々しくこう言った。
「……どうやら西国からの荷馬車がクラッシュボアの群れにやられたようなのです」




