第202話 少々
「さ、着きましたよ。中に入りましょう」
巨大な洞窟の入口には鳥居が建てられている。
蒼い結晶石が輝きを放っており、洞窟の中は明るい。
「ここに玄武様が?」
「はい。神獣の棲む迷宮は攻略に倍以上時間が掛かると言われています。単純に魔物が倍以上の数と強さで押し寄せてくるだけでなく、迷宮の長さも倍となっています」
「そんな魔物相手に、戦うんですか……?」
「セフィーは最初は要介護だね。ちょうどお出ましだ。秘策を用意したから試してみよう」
この迷宮の敵、アクアクリスタルタートル。
背中の甲羅が、この洞窟の蒼い結晶石のように淡く光っている。
主食はこの結晶石なのかな……?
「セフィー、ちょっとごめんね!」
「お、お義母様っ!?」
僕はセフィーを抱っこで抱えてアクアクリスタルタートルに詰め寄る。
「グギャアア!」
「よっと!」
口から放ってくる氷のブレスをリフレクトバリアで発生とともに跳ね返す。
「セフィー、一発思いっきり!」
「は、はいっ!てやぁっ!」
セフィーはあらかじめ渡しておいた『月のグローブ』でバシンと殴ると、アクアクリスタルタートルの甲羅である蒼結晶石がパリンと砕けた。
「じゃ、残りはよろしく!」
僕が殴った分だけ経験値の無駄になってしまうからね。
「はい!」
エルーちゃんは僕があげた『静寂の双剣』で両側から挟み込むように固い鱗に二閃すると、固い甲羅が削ぎ落とされる。
「行きます!煉獄炎!」
その剥がれたところに塗り込むように極炎が入っていくと、「グギャアア」と悲鳴を上げて倒れる。
「す、すごい……これがソラ様のお弟子様達……」
「セフィーもすぐになれるよ」
僕の言葉が信用ならなかったのかセフィーは二人を見たが、二人はブンブンと首を横に振っていた。
「あの、少しよろしいでしょうか?」
「どうしたの、エルーちゃん?」
「聖獣様、いえテティス様の場合、テティス様の縄張り……いえ棲み家にいらした方々は皆様テティス様の眷属の方々で、その方々が私達に攻撃することはありませんでした。神獣様の棲み家の場合はそれとはまた違うのでしょうか……?」
ああ、そういう質問か。
「聖獣が縄張りのボスだとすれば、神獣は『その一帯を管理するもの』というのが正しいかも。ティスの場合はあの洞窟のリーダーをしていて、リルならウルフ達のボスをしている。群れが生きていくために必要な決定権を持っているけど、その裏でエリス様の命令で私達聖女に協力してくれているんだ。だからグループ内で『聖女の仲間には攻撃しない』みたいなルールを作っているところもあるんだよ」
召喚している時はサブリーダーに任せているらしいから、どちらかというと会社の会長とかの役職に近いのかもしれない。
限られたグループのトップで、ある程度群れの思想を統一させているということだ。
「逆に神獣は創造主であるエリス様の代わりにそこら一帯を治めている。いわば神様の代理者なんだ。その範囲は広大で、北一帯を統べているのが玄武。そうすると個々に見ることなんてできやしないでしょう?」
勿論逸脱したことがあれば動くかもしれないけど、それでも余程のことでないと動かない。
「なるほど……。神獣様が管理されているのは最早、群れという単位ではないのですね」
「国王や領主とは違うのは、人だけの利益を考えているわけではないことかな。そこに棲むのは魔物もそうだし、自然もある。各地の領主を包含しているのが国王だとすれば、それを包含するのは神獣。そしてその神獣を作ったエリス様が包含しているというわけだね」
会社でいうなら役員、学校で例えるなら生徒会役員。
それを世界規模にしただけだ。
「ええと……先程ソラ様はエルーシアさんだけでそれを倒すと申していましたが……」
「そ、そんなの無理ですよっ!?」
「そんなに怯えなくとも、少し力比べをするだけだよ」
「ソラ様の『少し』ほどこの世で信用できないものはありませんよ……」




