第200話 臨画
「私が、他人の魔法をコピー……?」
「技の名は『臨画』。恐らくこの世界でお主と主様、そして神様しか使えぬ魔法じゃ」
セフィーはゆっくりと手をぐっぱーと握ったり開いたりしている。
「ですが、私はこれまで一度もそんなことをできたことがありませんでした。それどころか、魔法すらまともに打てないんですよ……!」
「それはおそらく、魔力が足りないからじゃないかな?」
「要するに、レベルを上げろということじゃな。それに、相手の魔法をコピーするためにもレベルを上げねばなるまい」
「そうなの?」
「えっ……?ソラ様にも知らないことがあるのですね」
「ソフィア会長は私をなんだと思ってるんですか……。鳳凰とは闘ったことしかないですし、七属性魔法で『臨画』が使えるのはこの世界に他にいませんでしたから……」
敵として自分と同じ技を使ってくるという知識があるだけで、どちらかというと七属性については対処法ばかり知っている気がする。
「セフィーよ、お主は主様の加護を持っておったが、今までそれを知らなかったと言っておったな?」
「は、はい……お恥ずかしながら」
「いや、それには理由がある。お主は主様のお声を聞いたことがないじゃろう?」
「はい」
「「えっ……」」
そういえばそうだ。
加護持ちはお互いに会話できるのに、その声を一度も聞いたことがないなんて、どう考えてもおかしい……。
「本当に一度も聞いたことがないんですか?」
「セフィーが認識していないだけかも。これまで頭の中で自分以外の声が聞こえていたりしなかった?」
「……とくになかったとおもいます。あ、でも……お義母様に毒を投げてしまったときは低い唸り声みたいなものがずっと頭の中で鳴っていました……。あれがそうだったのでしょうか……?」
「セフィー!?」
ちょっと、急にぶっこまないでよ!
「毒……?」
「あっ……」
事実を口にしたセフィーも言ったことのまずさに気付いたようだ。
「な、なんでもないですから……」
「……そういうことでしたか」
「ごめんなさい、内緒にしてもらえますか?」
セフィーの顔が真っ青になっている。
「ソラ様には借りがありますから、もちろん構いませんが……。セラフィーさん、正直なのは良いですけれど、ソラ様に迷惑をかけないためにも物事の分別はつけるようにした方がいいと思いますよ」
「は、はい……申し訳ありません、お義母様、ソフィア会長……」
「同じ七属魔法を持つ者として、ひとつだけ忠告しておく。主様が加護を与えたものにお声を届けないのには理由があるのじゃ。主様は加護は与えるが、生涯その加護の能力を知らずに済むのならそれでいいと考えておる。その理由は分かるか?」
「悪用されてしまうから、でしょうか?」
「そうじゃ。使い道を誤れば主様は加護を取り消すじゃろう。お主はこの力で何を成す?」
「私は……お義母様のためになることがしたいです!」
「したいことをしていいんだよ?」
「将来の夢もない私はせめて私を救ってくれたお義母様のために何かしたいと思うようになりました。でも、お二人に相談するまで私には何もないのだと……そう思って諦めていました」
「セフィー……」
セフィーは僕を真っ正面に見つめながら、僕の手をとってこう答えた。
「私でもお義母様のお役に立てるって分かって、今……とても幸せなんです!」
「もう、セフィーったら……」
僕とセフィーはひしりと抱きしめ合った。
「雨降って地固まる、じゃな」
不思議と天に掛かった七色が、僕達を祝福しているようだった。




