閑話55 心配事
【ディアナ・ジンデル視点】
「今年もこの季節が来ましたね……」
「ディアナお母さん……私、行きたくない……」
「そうも言っていられないわ。今年は大聖女様に御挨拶しないといけないから」
正直、私も行きたくはありません。
聖女様方は私達に良くしてくれますが、ハインリヒ王家はソフィアちゃん以外はあまりいい顔をしません。
「それに、ジーナ様にもたまにはご挨拶しないと」
ジーナ様に似て正義感が強かったこの子は、エルフとのしがらみで大分やつれてしまいました。
これはよくないと思った私はサンドラを連れて南の国の誰もいない森に住むことにしました。
幸いジーナ様の功績と私の貯蓄で、聖女院の援助なくしても生活できています。
だけれども本来なら役目を終えた私に我が子が付き添う必要はありません。
エルフ種にしてはまだ若いのだから、サンドラはやりたいことをして欲しい。
ですが幼い頃から植え付けられたトラウマは、彼女を外へは出したがりません。
私もジーナ様亡き後にそれらの悪意から守れなかった手前、それを強く言うことはできませんでした。
「今年はきっと大丈夫よ。聖女院はいつも通り配慮してくれるし、サン王家も一緒だもの」
「……ジーナお母様に会いに行くだけよ」
「そうね。そう考えた方がいいわ……」
噂をしていると、金と赤の独特な馬車がやってきました。
「ディアナ様!サンドラ様!」
小人族の可愛らしい護衛とともに現れたのは、二人の御仁。
燃え盛る炎のような髪に炎をマフラーのように纏った、見た目も中身も暑苦しいこのお方こそ、サン・イグニス様。精霊族で南国ソレイユの王様です。
そしてその隣に立つお方は王妃アクア様。
「イグニス様、アクア様、お久しぶりです。ご健勝で何よりでございます」
「アクアちゃん!」
たまにいらしてはサンドラのことを気にかけてくださるからか、サンドラはアクア様のことが好きなようです。
「ふふ、元気にしていた?」
「アクアちゃんこそ」
「積もる話は中で。さあ、行きましょう!」
「フィストリアも王家の体制が大きく変わったそうですね」
「魔王の討伐もサクラ様の生還もフィストリアの不祥事も、大聖女様によるものですから。今年は大聖女様のお伺いをどう立てるかが各国に問われるでしょう」
「大聖女様の機嫌を損ねたら、その国は終わりでしょうね」
「大聖女様はお優しいと聞いたけど……」
「後ろにおられる方々が黙ってはおりませんから」
「あ、ああそういう……」
腕を組むイグニス様は敢えて言わなくていいことを言ってくださいました。
「流石に神様を敵に回すことはしないでしょう。ただ各国、通したい言い分はあります。エリス様と聖女様方をどう騙せるかが肝となるでしょう」
「今年は荒れるかもしれませんね……」




