閑話54 流れ星
【ケイリー視点】
「すまない、ケイリー殿……。気分を害されたか?」
「気にしなくていい。私も場違いだという自覚はあるさ」
「ま、気にすんな嬢ちゃん!お嬢は女に対してはみんなあんなだからな……」
「……」
こちらは陛下達のいない方の馬車。
こちらにいるのは東方の守護神である樹下殿、暗殺メイドの夏樹殿、それから槍使いの青年樹村殿、最後に顔を覆い常に無口な短剣使い青樹殿。
これが樹家を守る陰の存在、「樹陰」達……。
まさかこんなに間近で見ることになるとは思わなかった。
「ふふふ、岬ちゃんも可愛い子相手だと気が抜けないのよ。分かってあげて」
それは出発前のこと。
「樹下お兄様、お久しぶりですね」
「おお、岬ちゃんも久しいな!」
む……?
仲が良いとは言っていたが、ちゃん付けなのか……。
おかっぱの黒髪で可愛らしい梛の国の伝統のお人形みたいなこのお方が、樹岬殿下だ。
私にはないものばかりで、羨ましい。
「……貴女は?」
「お初にお目にかかります、岬殿下。北の国の冒険者のケイリーと申します」
「そういう堅苦しいのは結構よ。……貴女は弟を狙う虫かしら?」
急にどす黒いオーラを出したかと思えば、どうやら闇属性魔法が漏れだしてしまっているようだ。
「おねえちゃ、けんか、めっ!」
「あら、ごめんなさい、静馬!お姉ちゃんは貴方の身の危険を案じているだけよ」
「それでも、だめ!」
静馬殿下は幼いのに、しっかりしたお方だ。
「私には殿下をどうこうしようなど考えもしませんよ……」
「誓ってくれるのは有り難いわ。それとも、お兄様狙いかしら?」
「っ!?」
「あら、まさか図星……?」
冗談のつもりだったのか。
口に手を当ててびっくりするも、すぐさまニヤリと嫌な笑みをみせて来る。
「お兄様は私一筋でしょう?」
「すまぬが、岬ちゃん。拙者にはもう心に決めた人がいる」
「えっ!?」
「きのしたおにいちゃ、けっこんするの!?」
「まだ告白もしとらんて……」
「お相手はどなたなんです!?」
「『乙女の秘密』と言われているシエラ・シュライヒ殿だ」
「……あの女狐……」
「どうかしたか?」
「いえ、なんでもありません♪」
その笑顔はとても怖く、私は女の腹黒を味わった気分だった。
馬車にのってしばらく経ったとき、事件は起きた。
ガラガラガッシャン!
「敵襲か!?」
「どいてくださあああああああいっ!」
元気な少女の声とともに現れたのは、小人族と思わしき女性。
それが光魔法でとても大きなクラッシュ・ボアに風穴をあけている……。
「ふぅ、間一髪」
「貴殿は、もしやステラ殿ではないか!?」
「あれっ?樹下さんじゃないですかっ!?またお会いしましたねっ!」
ステラ殿といえば、まさか……。
「本当に貴女があのステラ殿か!?」
「あっ……!もしかして、雪山で助けた……」
「やはりか!貴方達のおかげで、私は生きながらえることができた。本当に感謝している!」
「そんな、大袈裟ですよぉ……。私なんて師匠に比べればまだまだですしっ……」
そのベレー帽についた七色に輝く聖印が、弟子の証ということだろう。
「『水の賢者』殿と『乙女の秘密』殿は一緒ではないのか?」
「いえっ、私は基本別行動ですからぁ。ふふふっ」
「どうかしたのか?」
「いえっ!『乙女の秘密』、ちゃんと広まってるなって思いましてっ!」
「あ、ああステラ殿の仕業だったのか」
急に二つ名が知れ渡っていたからびっくりしていたが、そういうことか。
それから私は恩人としばし冒険者としての語らいをしたのだった。




