第196話 投書
朝。
ジリリリリと相変わらずけたたましい音がしてから数分後、エレノアさんは降りてくる。
「おはようございます、エレノアさん」
「おあよぉ……」
眠い目を擦りながら来るも、エレノアさんは少し身だしなみに気を遣うようになった。
そうさせているのが僕だということに気づかないほど愚かではないけど、違ったときが恥ずかしいので何も言えない。
というか僕を意識しているのなら、まず下を履いてほしいんだけど……。
薄着でいるとお風呂場での一糸纏わぬ姿を思い出してしまう。
僕が顔を赤くして反らしているのもバレているのだろう。
完全に分かっててやってる当たり、ずるいなと思う……。
「あれ?そういえばシェリーは?」
そう聞いた途端にドタドタと音がすると、やがてシェリーが降りてきた。
「お義母様!!」
「おはよう、シェリー。そんなに慌ててどうしたの?」
「これ!どういうことですか!?」
手に持っているのは、新聞?
「何これ……『大聖女様公認!?大聖女の花園』ってぇっ!?」
「あ……」
僕とセフィーが驚く。
「なっ、どうしてニュースなんかに……」
「お義母様、あの本にサインしたでしょう?それからお店に飾られて販促に使われていたんですよ!」
「あっ……」
そういえばそんなことやったな……。
「み、見ないでって言ったのに!」
これでは完全にエッチな小説を父親……いや母親に見られた図になってしまった。
「ごめんなさい、シェリーが頑張って書いているものだから、どうしても応援したくて……セフィーと一緒に買いに言ったの」
「セフィーまでっ!?」
「私も小説のことはよく分からないけど、シェリーのことは応援したいもん……」
「セフィー……」
「でも結局よく分からなかった……。女神様と大天使様の絡みの時も、急に『蜜に触れる』とか『壺口を撫でる』とか書いてあったけど……お二人は蜂蜜がお好きなの?」
「セ、セフィーっ!?」
無知って怖い……。
これじゃあ公開処刑だろうに……。
シェリーの言う通り、セフィーにはまだ早かったようで少し安心した。
「でも、本当に続きが気になるくらいには良い作品だと思ったよ」
「お義母様、ではこの作品は、使えましたか?」
「なっ、何を聞いてるのっ!?」
「そういうのって大事なことですから!」
「いや、ええと……」
僕が「使った」なんて言ったら、それこそ本当にただの変態じゃないか……。
でも「使えない」なんて言ったらシェリーも残念がるし、どっちを選んでもいいことがない……。
「ノ、ノーコメントで……」
放課後。
いつものように1年S組の3人で聖徒会室に入る。
「ごきげんよう、皆様」
「ごきげんよう。シエラさん、少し外でよろしいですか?」
顔を出すなり顔を貸せと言われてしまった……。
なんだろう?
「もしかして、今朝の新聞の話ですか?」
「驚きはしましたが、知っておりました。やはりシエラさんは百合……。あなたならあの小説にハマると思っていましたよ」
「いや、身内が書いているので買ったんですよ。作品自体は面白くて続きが気になりましたけど……」
「み、身内!?もしかして……三色菫さんはシェリルさんなのですか?」
「あっ……」
こういうの、バラしちゃいけなかったな……。
「大丈夫です、そういうのは弁えていますから!でも、隠す代わりに今度サインをいただけませんか?」
「……一応聞いてはみます」
「ふふ、ありがとうございます♪」
シェリー、本当に人気作家なんだな……。
「それで、私達はどこへ?」
「相談室です」
「なるほど、『目安箱』の件でしたか。てっきり何か怒られるのかと……」
「ふふ、貴女に私が申すことなんてありませんよ」
信用されているようで少し嬉しい。
「ありがとうございます。それで、相談者はどなたですか?」
「……シエラさんには知る権利があると思いますから」
「えっ……」
そう言って手渡された投書。
書かれていた氏名を見て僕はやがて驚きを覚えた。
「セフィーっ……!?」




