第20話 茶会
お茶会の日。
朝、エルーちゃんに無理やりドレスに着替えさせられる。
必要ないと言ったんだけど、
「王城に行くのですから、おめかししないとダメですっ!」
とエルーちゃんに押しきられてしまった。
インナーにお腹周りをきつく締められる感じがまだ慣れない。
こんなものに毎回堪えているのかと思うと、ドレスを着る人達は改めてすごいと思う。
「では、あとはお任せします」
更にメイドさんに化粧室に連れていかれ、顔をもみくちゃにされて今に至る。
「ソラちゃん!」
外でサクラさんが待っていた。
「いってらっしゃいませ」
執事さんにお見送りされ、馬車でお城へ向かう。
「ソラちゃんも呼ばれてるって聞いてびっくりしちゃった。その姿、とても素敵よ」
異性にそう言われるのは未だに腑に落ちないが、この間迷惑を掛けたし素直に呑み込む。
「……ありがとうございます。サクラさんもお綺麗ですよ」
サクラさんはレースに黒スカートとシックにまとめていた。
「あら、ありがとう。しかし、まさか1010点取るなんてね。私は940点くらいだったと思うけど、歴代の聖女でもトップの成績を取れたソラちゃんはやっぱり賢いのね」
「……ちなみに聖女以外で満点を取ったことは?」
「……いるわけないでしょう?何なら、900点台を取ったのも過去に一人くらいしかいないらしいわよ?」
「…………」
泣きたい。
「これからどうやって誤魔化そう……。」
「『大聖女さまに師事してます』、しかないんじゃない?」
「それ、いただきます……」
自分がどんどん嘘で塗り固められてゆく……。
王城へ着いて馬車から降りると、見張りの兵隊さんと執事の方が出迎えてくれた。
よく見ると、見張りの方も執事さんもエルフ族のようだ。
「ようこそお越しくださいました。大聖女さま、聖女さま。ソフィア様のところまでご案内いたします。どうぞこちらへ」
この仰々しいやり取りに、未だに慣れないでいる……。
ここハインリヒ王城は自然の緑に溢れた、城の白を基調とした神秘的なお城だ。
ハイエルフ族が統治しているだけあってか、自然に溶け込むように造られているのだろう。
特に神秘的なのがこの庭園だ。
木々や植物の茶色や緑、日の光が少し射し込む自然に囲まれた空間に、白い噴水が混ざり混んでいる。
空間のなかに垣間見える人工的な白の色も、植物の弦が絡んでおり、自然の一部のように溶け込んでいる。
少し歩くと、これまた植物に溶け込む白いガゼボが見え、例の人物がいた。
「ようこそ、サクラ様。そして初めまして、ソラ様。私、ソフィアと申します。我が庭園へようこそ」
なんて白々しい……。
案内してもらった執事さんの手前、お互いに茶番のような挨拶をし、僕から順に席に座る。
おもむろに防音魔法を張るサクラさん。
えっ、防音魔法まで張って何を話すの!?
「さて、じゃあいつものようにガールズトーク、しましょうか」
サクラさんは僕にウィンクしながらそう言う。
……絶対に分かってて言わなかったな、この人……。
「サクラさまは旦那様とはその後、いかがですか?」
……!?!?!?
聞き捨てならないことが聞こえ、ガタッと席を立ってしまった。
「サクラさんっ、結婚していたんですかぁっ!!?」
「あら?ご存知なかったのですね。一年前、最愛のアレン様とご結婚なされたのですよ」
し、知らなかった……。
というか会ったこと一度もないよね。
「アレン様は平民のお生まれなのですが、剣技だけで急伸なされて聖女親衛隊長にまでなられた御方なのです!とても紳士的な方で人当たりもよく、まさにサクラさまに相応しい御方ですわ!」
早口で捲し立てるように話すソフィア王女。
聖女親衛隊とは聖女が視察などで遠出をする際の護衛部隊のことだ。
聖女ごとに護衛をつける必要があるらしいが、僕の親衛隊の募集は来年になるそうだ。
「どうして黙っていたんですか……?」
「だって……ソラちゃんを紹介して惚れでもしたら嫌だもの」
「……旦那さんなんですから、私のこと言えばいいじゃないですか」
「いいの?」
「私なんかのせいで仲違いなんてしないでくださいよ……」
「ふふふ、今から反応が楽しみだわ!」
ほんと良い性格してるよ……。
アレンさんは苦労してそうだ。
「なんだか、仲間外れにされている気がしますぅ……」
ぷくぅ~っと頬を膨らませるソフィア王女。
「そういうソフィアはどうなのよ?」
「ハイエルフはハイエルフ同士ですから、そんなに浮いた話がないのですよ……」
そうなんだ……。
みんなが幼なじみというのは、良いところも悪いところも共有されているのだろう。
「ソラ様は……いえ、不粋でしたね」
何故か聞こうとして途中で止めるソフィア王女。
どうしたんだろう?僕に聞いちゃいけない決まりでもあるのかな?
「いや、私は聞いておきたいわね。ソラちゃんは学園で気になる子とかいた?」
せっかく王女が話を閉じたのに広げないでよ……。
というか王女には男だって話したのかな?
「やはり大聖女さまは百合……」
なんか違う誤解の仕方をされた!?
結局、王女のよく分からない誤解を解くことは叶わなかった。