第195話 官能
寮に帰ってさっそく自室で読み進める。
既に二巻まで出ているようで、読むのが楽しみだ。
物語は大聖女がこの世界にやってくるところから始まる。
元の世界とのギャップに慣れず、暮らしていくのが大変な大聖女。
そのためいつも庭園の花園で一人でいる大聖女。
そこにメイドさんや王女がやってきてはこの世界のことを教えてくれる。
大聖女は大天使、そして女神様と次々と魅力的な人達が花園にやってきて、花園は彼女達の土産物で彩られていく。
ある日、花園に来なくなった彼女達のことをメイドさんに聞いてみると、外は魔王と魔物の群れが来て大変なことになっているという。
大聖女はいつもよくしてくれる恩返しとばかりに魔王を倒すと、それに感激した女神が勢い余ってそのまま告白をしてしまう。
……。
……いや、これがフィクションなのは僕が一番分かっている……。
でも時折事実を織り混ぜてきているせいで、僕も大聖女のこと以外がどこまで事実なのか分からない。
シェリーが取材と称して寮の皆に事実確認をしていた姿はみているから、余計にね……。
告白されたことのなかった大聖女は思わずどう反応していいか分からずに逃げ出してしまう。
そのまま自室に帰ると人影がいたので、身を潜めて覗いてみる。
はじめは不審者かと思ったが、そこから聞こえてきたのは甘美な声。
「……えっ……」
大聖女のいつも寝ているベッドの上、そこには一人でしているメイドさんの姿があった。
大聖女のことを何度も呼ぶその甘い声に、大聖女は覚えたことのない初めての感情を抱く。
一巻は、ここで終わっていた。
「…………」
向こうの世界の本と違って挿し絵がないせいで、登場人物は自分で想像するしかない。
でもあまりに登場人物が身近な人しかいないせいで、僕はその人達で勝手に想像されてしまう……。
「これ、ヤバイかも……」
これはいけない妄想だ……。
エルーちゃ……いやメイドさんがそんなことするはずない。
そのうえ、母親が義娘の書いたエッチな小説を読んでしまうという擬似体験をしているかのような気分になった。
一巻を閉じてアイテムボックスにしまい、二巻を取り出す。
「何がヤバイのですか?」
「ひあぁっ!?」
耳元から声が聞こえて、僕は慌てて取り出した本をアイテムボックスにしまった。
横を振り向くと、メイドさ……いやエルーちゃんの姿がそこにあった。
「な、何でもないよ……」
「し、失礼しました!お耳は弱いのでしたね……」
「いや、気にしなくて良いよ……」
フィクションと現実を混同してはいけない。
異世界に来てまでそんな教訓を得るとは思わなかった。




