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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第25章 鳳凰于飛
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第194話 筆名

 新たな聖女の誕生の予告に、聖国は大盛り上がり。

 しばらくお祭り騒ぎで学校は休みとなった。


 今日は義娘と外出……。

 というとお義父さん感が凄い冒頭だが、残念ながら今の僕はお義母さん。


「お義母様がこちらにいらっしゃるとサクラ様から神託をお聞きしたときも、それはもうパレードだったのですよ!」


 僕がこちらに来る前のことは何も知らないから、なんだか新鮮だ。




 実はセフィーと二人で出かけたのはこれが初めてかもしれない。

 といってもシェリーと二人で出かけることもあまりなく、出掛けるなら三人一緒か、エルーちゃんも一緒だからだ。


 だが今日は二人で行く必要があった。




 今日の目的は、シェリーの本を買うことだ。


 シェリーからは見ないでと言われてはいるが、やっぱり曲がりなりにも親としては陰ながら応援したい。

 とはいえ僕も身内にバレることへの理解はある方だと思ってはいる。

 ただ僕の場合は家族全員に知られていたけど……。


 なので本人には内緒でこうしてきている。

 本を買ってもアイテムボックスにしまっておけばいいし、僕が読んだことを隠していればバレないだろう。


「どんな本なんでしょう?」

「てっきりセフィーは知っているんだと思ってた……」

「シェリーったら、教えてくれないんですよ。『セフィーにはまだ早い』とか言ってて……」


 ……恋愛物語って言ってたからなぁ。

 確かにセフィーにはまだ早いのかも?




 こちらの世界の本屋さんに行くのは実は初めてだから少しワクワクしていた。

 基本的に大抵の書物に関しては聖女院の図書館で事足りてしまうからね……。


「お義母様、さっそく探しましょう!」

「そういえば、セフィーはシェリーのペンネームって知っているの?」

「ペンネーム……?」


 あ、そこからなのね……。


 以前から本は苦手って言ってたけど、このままだとシェリーの本を買ったとしても、途中で読むのに飽きちゃうんじゃ……。


「作家さんは本名を使わなかったりするんだよ。でも著者として本名の代わりに名前を入れる。それがペンネームって言われるの」

「どうして本名を使わないのですか?」

「う~ん……人によって理由はまちまちだと思うけど、身内に知られたくないとか、作品に思想を入れたくないとか」

「私なら本を出すなんて誇らしいので、本名にしたくなりますけど……」

「世間が必ずしも味方とは限らないから。町中で急に出会って、誹謗中傷を受けたりするかもしれない。有名になるって、そういうことだから」

「お義母様……」




「むむむ……」

「どうしましょう……?」


 困った。


 本屋に到着して探し始めたんだけど、見つからない。

 ペンネームか作品名くらいは聞いておくんだった……。


「何かお探しですか?」


 エプロン姿の犬耳少女がこちらにやってくる。


「って!?もしかして、ソラ様……っ!?」


 あ、変装してくればよかった……。

 いつものようにフードを被っていたのだけど、それくらいだとすぐバレるな……。


「な、ななな何かおおお探しですかかかっ!?」

「落ち着いて、そんなにかしこまらなくて大丈夫ですから」

「びっくりしました……。私は店員のウィラです!」


 表情によって垂れたり起き上がったりする耳が可愛い。


「クロース出版から出ている小説を探しているのですが……」

「ご、ご案内します!作家さんの名前は分かりますか?」

「……ごめんなさい、それがよく調べないできたので分からないんです。私のことについて書かれた恋愛小説ということは分かっているのですが……」

「ええっ!?それってもしかして……」


 ぴこんとアンテナのようにウィラさんの耳が立つと、まるでダウジングのように本棚を案内してくれる。


「お探しのものは、こちらではありませんか?最近大人気の恋愛小説なんですよ!」


 それを聞いて思わず目を合わせる僕とセフィー。


 シェリー、大人気小説家だった……。




「『大聖女の花園』……。著者、三色(みしき)(すみれ)……パンジー?」


 何故……?


「パンジー?花ですか?」

「あ、ああ……ええと、三色菫(さんしきすみれ)はパンジーの和名なんだ」

「そうなのですね。流石はお義母様、博識でいらっしゃいますね」

「たまたま知っていただけだよ……。それより……」


 どうしてパンジーなんだろう……?


「それにしても、これをお求めということは、やはりソラ様は()()()()()がお好きなのですね!」

「えっ……?」

「いえ、なんでもありません。あの、お代は私が払いますから!その代わり、サ、サインをいただけませんかっ!」

「サインは別で書きますから、普通に買わせてください」

「でも……」

「買わせてください」


 固い意思とともににっこりと微笑むと、何も言えずにコクコクと頷いた。

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