第193話 迫害
「ジーナさんの奥さんとお子さん、生きてたんですね……」
「今は南の国の森にご隠居されていらっしゃいます」
そっか、ジーナさんは同性でメイドさんと結婚して子供を成したって……。
そのメイドさんがエルフ族の人だったんだ……。
「じゃあ、サンドラさんはハーフエルフなんですね」
「……ソラ様、その話はあまりされない方がよろしいかと」
リリエラさんが話を止めに入った。
「……?」
「ハーフエルフの方は、エルフ族にはいまだ迫害されているようなのです」
「ど、どうしてですか……?」
「種族的な問題です。ハイエルフ族は先祖との血が濃く、『生命の声が聞こえる者』と言われています。ハイエルフ族の『魔力視』はその恩恵と言われており、エルフ族は『魔力視』こそ持っていませんが、『魔力感知』ができるようです。逆にハーフエルフ族はエルフとしての血が薄く魔力を感知することもできない。エルフ種の価値観としては魔力が見えることこそ尊ばれるので、ハーフエルフの方々は人種族でいうなら奴隷並みの扱いをされてしまっておりました」
「そんな……。人種族や小人族、獣人族とのハーフエルフはエルフ族にはつかない筋肉が付くから、武術と魔法の両立ができるいい種族なのに……」
その人々の中身も知らずに単に種族で嫌っているってこと……?
「ジーナ様が御隠れになられる前にその辺りの偏見を大分払拭なされたそうですが、エルフ族やハイエルフ族の貴族の間では今でもその考えを持ったものが一定数残っています」
「それって、魔力以外にも何か理由があるのでは……?」
リリエラさんが口を開いた。
「……あとはこれはエルフの学友に聞いた話ですが、自分と違うものが怖いのだろうと言っていました」
リリエラさんの友人……ノエルさんのことだろう。
「怖い?」
「人種族で例えるならば、ほとんど人間と同じ姿をしているのに、顔だけ馬の形をしていたりすると、その差異がある部分のことを人間は理解しようとしても理解できないですよね?」
「自分には持っていないものですから、完全に理解するというのは難しいでしょうね……」
普段は草食なのか、体は人間だから人間と同じものを食べるのか、人間と同じ生活をしたら体調が悪くなってしまうのか、それは自分の体ではないのだから聞かないとわからない。
「『恐怖は常に無知から生じる』。その種族達と共に生活すると、同じ生活をしているのに急に大声を上げたりと、理解しがたい種族の違いに苛まれるかもしれません」
「同じ種族ですら、人によって千差万別なのに……」
人間だって、同じ種族でも突然大声を上げる人もいれば、全くしゃべらないほどの静かな人もいるはず。
同じ種族でも育ってきた文化ですら違うのだから、それは種族がどうこうの問題ではないと思う。
「そういった心が積み重なり、やがて民衆の意思となってしまったと、友人は話していました。エルフ族は言葉にこそだしませんが、内心ではエルフ種以外の血を見下しているとも言っていました」
「聖女も人種族なのに、軽蔑はされないのですか?」
「エルフ種の人達は『聖女様は神様のお力によって別の種族になった』と考えているらしいです。失礼を承知で申し上げますが、聖女様のお力はお子様に引き継がれないことから、お子様は『ハーフ聖女』であるという考え方をしているそうで、よりその考えが増長しているみたいなのです」
既に「ハーフ=血が薄く、能力が劣る」という価値観が根付いてしまっているということか……。
以前、涼花様を『聖女のフン』なんて呼ぶ揶揄があったが、ここから生まれた差別用語かもしれないな……。
「涼花さん、私なんかよりずっと凄い人なのに……」
家柄で言うなら、僕の家なんか最悪だろう。
「ソラ様」
リリエラさんが優しく僕の左手を取る。
「涼花様が凄いお方なのは同意いたしますが、あまり御身を卑下なさらないでください」
「リリエラさん……」
「貴女様はこんなにも可憐な女性なのですから――」
そう言って僕の手の甲に口づけするリリエラさん。
リリエラさんはフォローしてくれたけど、リリエラさんが女性らしさを謳えば謳うほど、僕が男らしくなくあの惨めな奏家の子供であることが強調されていくのだった。




