第190話 伝道
まったりと夕食をいただき、エフィーさん達と別れる。
「ソラ様はこの後どちらへ?」
「ちょっとルークさんに用事がありますから、私はこれで……」
「『お兄様』ではないのですね」
「今はシエラではありませんから……」
「少し残念……」
どうしてよ?
「エフィーさんはミア様と随分仲良くなったみたいですね」
「なんだかなんでも誉めてくれる後輩みたいで可愛くって!今日はこのままこの子、連れていってよろしいですか?」
堂々と誘拐宣言をしないでほしい。
「いいですけど、ちゃんとフローリアさんに外泊許可貰ってきてくださいね」
この間のエレノア様の件があるから、そこはしっかりしないとね。
「聖徒会速報の内容、一緒に考えましょ!」
「よ、よろしいのですか!?」
「ふふ、若い頃を思い出すわぁ……」
エフィーさんも結構若い方だと思うんだけどな……。
食堂から2階の執務室へ。
がちゃりと開けると、思わぬ人が待っていた。
「あっ、ソラ様!いらっしゃいませ!」
「えっ……リリエラさん!?」
「本日は秘書見習いの日でお邪魔しております……」
「そ、そうでしたか……。お邪魔をしてしまい申し訳ありません……」
「そ、そんな!?お邪魔だなんて……!」
顔を真っ赤にするリリエラさんは相変わらずギャップの塊だ。
「最近はどうですか?」
「ええ、ソラ様とシエラさんのご尽力で次々と不正が暴かれ、聖国王家から沙汰が下されております。私達はソラ様のご希望通り、厳罰の影響で民に影響が現れると思いますので、それらのサポートをすべく動いております」
腐っても領主なのだ。
ただ罰を与えてしまえば、そこに住んでいる人達を巻き込んでしまうことになる。
「最終的には、移民や領地を縮小させ、他の貴族に任せることになると思います」
「私は、ルークさんとのその後はどうかとお訊きしたかったのですが……」
「は、早とちりしてしまい、すみません!」
「いいえ、ルークさんと同じ反応で相性抜群ですね」
「もう、ソラ様……」
これくらいの茶化しはいいだろう。
「二人とも……というか皆さん、夕食がまだでしょう?私達のせいかもしれませんが……。軽食にサンドイッチを食堂でいただきましたから、皆様召し上がってください」
「ありがとうございます。皆さん、休憩にいたしましょう!」
「それで、本日はいかがなされましたか?」
サンドイッチを摘まみながら、クリスさんがそう聞く。
「ええと、そろそろ聖女院の人を増やす必要があると思いまして……」
「何か事業を?」
「聖女学園の大会を通して、魔術と武術に関して、正確に理解できている人があまりにもいないと感じました。今リッチと魔王復活に対し、各国での対抗力を付けて貰うためにも、魔術と武術の正確な知識を持った人々を用意し、その人達には知識を広める役を担っていただきたいのです」
「つまり、伝道師を雇おうということですか?」
「伝道師……まあそうなりますかね」
僕に出来ることはすべてやる。
親衛隊の試験は希望者で溢れかえるので、二年に一度らしい。
来年、僕と生まれてくる転生者の真桜ちゃんに親衛隊が付くまでの間に僕に出来ることといえば、世界に魔術と武術の正しい知識を広めることだ。
「募集はかけておくことにしましょう。それをお話しするということは、採用してほしい方が?」
「……ルークさんはエスパーですね」
「誉めても何も出ませんよ。長年聖女様に使えているのですから、傾向くらいは分かります」
「いつも無理言ってすみません……」
ルークさんは遠慮気味な動作を取る。
「サクラ様に比べれば、全然ですよ!ソラ様はもう少し我儘になってください」
よく分からない怒られ方をされてしまった。
「そうですよ!私達にもっと恩返しさせてください!」
「いや、ただでさえ働きすぎのルークさんにもっと負荷をかけるのは……」
「ソラ様はお優しいですね……。サクラ様も見習っていただきたいです」
いや、単に苦労人の見方なだけなんだけどな……。
「でも、本当にタイミングがいいので気にしなくて大丈夫ですよ。丁度、サクラ様のお子様もお生まれになりますから、侍女を雇う必要もありますし……」
「あっ……」
そうだ。
新しい聖女が生まれるんだから、その準備もしないといけないのか。
あれ?
そういえばまだサクラさんの子供が聖女になることって、公表されてないような……。
僕が勝手に言って良いのかな?
<いいわよ?>
<エリス様!?聞いてたんですか!?>
<あ、しまった!?とにかく、お告げはお任せするから!>
<エリス様……?>
聞こえなくなってしまった。
別に勝手に聞いていたことを怒ったりはしないんだけどな……。
「ソラ様、ぼーっとされて、どうしたのですか?」
「いや、今エリス様と話してたんです」
「まあっ!?エリス様が……」
「ええと、実は……」
そう言うと、執務官の方々が皆して耳を寄せてくる。
「もうすぐ新しい聖女が来るんです」




