第189話 取材
夕刻。
「森羅滅却!」
最後に剣の技を終えたとき、なぜかギャラリーが増えていた。
ぱちぱちぱちと拍手を受ける様子は、なんだか学芸会みたいで恥ずかしい……。
「って、どうしてアレンさんと親衛隊の皆さんがいるんですかっ!?」
「訓練あがりで帰ってきたらとても素晴らしいものをやっていたので、思わず見入ってしまいました……」
「流石は隊長を倒したお方っすね!」
「コラ!あなた達、少しはアレン隊長を立てなさい!」
副隊長のアイリーンさんが活を入れる。
「いいんすよ!隊長は戦闘に関して頭のネジが飛んでるっすから……」
アレンさん、随分な言われようだな……。
「何か勘違いしているようだが、ソラ様の修行は私の数百倍はきついぞ」
「そうなんすか!?」
こっちに飛び火したっ!?
それを聞いたミア様が冷たい目でこう言った。
「私もエルーちゃんのメニューを聞いたことがありますが、あれは到底人間のするメニューではないですね……」
「流石は『水の賢者』様ですね」
「皆さんどうしてエルーちゃんのことを知ってるんですか……?」
「サクラ様がよく話されているそうですよ。私達にはサクラ様を一番よく知る人がいますから」
それはそうなんだけど、その情報元のサクラさんは何処からこんな情報を取ってくるんだろう……?
「折角なので、夕飯を食べていきましょう」
皆さん聖女院のレストランで食事をするというので、付いていった。
「あわわわわ……わ、私なんかが付いていっていいんですかっ!?」
「構いませんよ。ソラ様のご学友なのですから」
そんなことを言っていたミア様だが、いざ席に付くと憧れの人を前にしたからなのか、積極的にエフィーさんとお話ししていた。
「涼花様がお生まれになったときも、大層話題になったものよ。当時はブルーム様も謎に包まれていたから、馴れ初めとか根掘り葉掘りお聞きしたの。懐かしいわ……」
謎って……でもまあそうだよね。
ブルームさん、普通のお花屋さんの優しいお父さんだったもん。
「私なんかのことより、ソラ様のお話しをしましょう?約束の件でもありますから」
今回の動本の報酬として、エフィーさんから取材を受けることになっていた。
親衛隊の皆さんはガッツリ系のカツ丼、僕はさばの味噌煮をお願いした。
「学園生活はどうですか?」
「えっと、シエラのことも聞くのですか?」
聖女院のお抱え雑誌なのだから、聖女の不利益になることは書けないはず。
「シエラ様としての功績を我々は知り得ないですから」
「でも、公表はできませんよ」
「今はまだお聞きするだけですよ。……卒業とともに公表するおつもりなのでしょう?」
う……僕のことよく分かってるなぁ……。
「ですから今のうちにシエラ様の功績も聞いておかないと、私達としては勿体ないのですよ」
逃げ道を塞がれた僕がおとなしく話し始めようとすると、代わりにミア様が口を開いた。
「シエラちゃんの功績と言ったら、なんといっても演劇と魔術知識の革命と、『乙女の秘密』です!」
「ちょ、ちょっと!?」
「そういえば、学園祭の演劇の映像データが一時期聖女院で流行っていましたね……」
「えっ!?どうしてそんなものがあるんですかっ!?」
いつそんなの撮られてたんだ……?
「聖女の個人情報どうなってるんですか……」
「今年はシエラ様と涼花様と王女様とエルーシアちゃんが出てきますからね。皆さん知っている顔で人気も高かったんでしょう」
恥ずかしくて手持ち無沙汰になった僕は紅茶に手をつける。
「まあ、確かに言われてみると凄い美少女達ですよね、皆さん……」
「美少女筆頭が何を仰いますか!」
美少女ではないのだけれど……。
「そういえば、シエラ様のSランクの二つ名は確かに『乙女の秘密』でしたね。由来はどこからなのでしょうか?」
「絶対に言いませんからね!」
多分樹下さんの誤解から広まってこんな二つ名になってしまったんだろう。
僕の自爆なのだからとんだとばっちりだろうが、余計樹下さんとは会いたくなくなってしまった。




