第188話 動本
「まさか、ソラ様が動本を出すの!?」
「本当はただの本の予定だったんですけど、魔術と違って武術は技すらも知らないみたいなので、深刻だなと思いまして。エフィーさんにその話をしたら、動本にしたらどうかと提案していただいたんです」
動本とは文字通り、動く本だ。
見た目は本だが、中をペラペラとめくると一枚一枚に動画と文字があり、そのページに魔力を灯すことで動画が見えるようになるという仕組みになっている。
「もちろん動本は高いので一応普通の本のバージョンも用意するんですけど、武術って言葉で説明しても分からないんですよね……。ですから安い普通の本と、映像の見れる動本でそれぞれ用意しようと思って」
動本は作るのにもコストがかかる。
その理由は、魔物の素材が必要になるから。
普通に作っても金貨十枚(もとの世界で1万円くらい)になってしまう。
だから一応販売はするが、あまり多くは量産できないだろう。
なので最初は各国の図書館や学校で数冊閲覧できるようにし、そこから徐々に販売で増やしていく方式にするつもりだ。
「じゃあ、行きましょう」
庭園へやってくると、かかしが置いてあった。
「紹介します。今日の撮影を任せているサフランです」
「サフランと申します!よろしくお願いしますっ!」
「よろしくお願いします、サフランさん」
握手を求めてきたので交わすと、その手がぷるぷると震えてきた。
「ああ私、大聖女様に触れてる……!」
んな大袈裟な……。
「サフラン、今日はソラ様を煩わせないように、ワンテイクで終わらせるわよ」
「は、はいぃ……!」
「エフィーさん、脅すのはやめてくださいよ……。別に取り直しでも大丈夫ですから、いいものを作りましょうね」
「ああ、女神様……!」
せめて神様にして……。
「では、まずは刀術ですね。一の型、白浪から順にいきます」
僕は抜刀の構えをして、案山子に襲いかかった――
「――……ふぅ」
軽く息をつくと、後ろでぱちぱちと拍手が聞こえた。
「まるで躍りのよう。ソラ様は舞もお上手ですのね」
見られながらやるのはなんだか恥ずかしい。
「一度、確認していいですか?」
「は、はい!」
サフランさんは持っていた四角い真っ黒なボードをこちらに見せると、その四角の枠内に今撮った映像を投影してみせてくれた。
映像魔法は後で加工ができないため、前世のように後から字幕や音声を入れることができないんだよね……。
一応透明な紙を上に重ねて別撮りしておいた字幕を入れたりすることはできるみたいだけど、ただでさえ厚い動本が二倍の厚さになってしまうので、もはやそれは凶器だろう。
一応魔力の供給を途中で止めれば一時停止やコマ送り、スロー再生などもできるみたいだけど、魔力操作が長けていないとそれも厳しいらしい。
巻き戻しもできないしね……。
お金のためにやらされていたこととはいえ、元クリエイターとしてはそのあたりの表現法方法が制限されているのは少し残念だけど、無い物ねだりをしても仕方ない。
この世界でできることをするだけだ。




