第186話 記事
休日。
「「おはようございます、お義母様!」」
「お、おはよう……二人とも、今日はどうしたの?」
セフィーが朝早いのはいつも通りだけど、シェリーは休日は缶詰になって出てこないか、昼近くまで寝ていることも多いのに……。
僕も何もなければシェリー派の人間だから、気持ちは凄くわかる。
僕が毎日健康でいられるのはエルーちゃんがきちんと起こしてくれるからに他ならない。
「い、いえ……なんでもないですよ!何でも……」
二人とも明らかに何かありますと言わんばかりの顔。
「ふふ、何かいいことでもあった?」
「い、いえ……」
まあ聞かなくても分かるんだけど、隠したいのならこれ以上は聞かないことにしよう。
シェリーはアルバイト、セフィーは勝利した賞金。
二人とも初めて自分で稼いだお金だもんね。
何に使うかまでは分からないけど、そういうのを考えられるのは嬉しいのかもしれない。
「ソーニャさんも、3位おめでとうございます」
「ん」
ソーニャさんはあまり表情を出さないよなぁ。
そうしなくても可愛いからずるいなとは思う。
ただ、こうも無表情だとあの疫病の時の帰り道に見た笑顔は幻だったのかと思ってしまうほどだ。
「あああ!ダメだぁ……」
朝食を終え二回の部屋に戻ろうとしたとき、ミア様の部屋から声がした。
「大きな声を出して、どうかしたんですか?」
ドア越しにコンコンと叩くと、向こうから扉を開けてくれた。
「ああ、ソラ様!ちょうどよかった!」
「いくら寮でも、この格好の時はシエラって呼んでくださいよ……」
誰が聞いてるかも分からないんだから……。
「ごめんなさい、聖女様をちゃん付けするのはどうも気が引けちゃって……」
「そんなの気にしないでくださいよ。私はそんな大層な人間じゃないんですから……」
「世界を救った人が大層じゃないわけないですよ!!」
そんなこと言われてもな……。
「私のことはいいですから」
「実は今、来週の聖徒会速報に載せる記事を考えていたの。それでシエラ……ちゃんはあの涼花の最後の技について何か知ってるんじゃないかって思って……」
「八の型、空蝉ですね」
「どんな技なの?」
「空蝉は相手の頭上を舞って背中に着地し、背後を襲う技です。相手からはまるで急に居なくなるので、蝉の脱け殻に例えてそう呼ばれるようです」
正確な身体強化技術がないとうまく行かない技だ。
「すごく烏滸がましいんだけど、それ、今見せて貰うことって……できる?」
「ああ、そういう話ですか。それならちょうどよかったですね」
「えっ?」
ピコっと垂れている耳が起きる。
「今日はこれからそれを見せに行くんです。ミア様も来ますか?」




