閑話50 悩み事
【セラフィー視点】
私は、少し焦っていた。
本来ならば死刑にも値する重罰を犯してしまった私達を、お義母様は何も言わずに許し、それどころか私達の持つ苦しみから解放してくださった。
お義母様に救っていただいたこの命、私は親孝行がしたかった。
ところがお義母様が私達に求めたのは、「失敗した人生のやり直し」。
お義母様は一から十までお人好しだ。
けれど私自身、これまで得意なことがあるわけではなく……。
体を動かすのは勉強することよりも好きだが、それはあくまで「シェリーと比べて」だ。
特出して何かに優れているわけでもないし、シェリーのように明確な夢があるわけでもなかった。
そのシェリーも今や作家先生。
私には「まだ早い」とよくわからないことを言って見せてくれなかったが、もう本も出しているらしい。
着実に夢への一歩を踏み出したシェリーと比較して、だんだんと私は何をやっているのだろうと思うようになった。
だからこの大会に出場できたことは、私にとって何かプラスになるだろうと、そんな淡い期待をしていた。
<勝者、橘涼花選手!>
シェリーとの約束は守れたが、私はそれ以上を望むことはかなわなかった。
「立てるか?」
「はぁ、はぁ……ありがとう、ございます……」
「何か、悩みでもあるのか?」
「えっ……?」
「君の拳には、迷いが見えた」
涼花様は鋭いお方だ……。
「……はい、すみません」
「構わない。だがその悩み、もしよければ聖徒会に任せてみるというのはどうだろう?」
「えっ……」
「『聖女様の目安箱』。君も聞いたことくらいはあるだろう?」
もちろん。
お義母様の発案したものを知らないわけがない。
しかも、その動機は語られていないが恐らく私達が原因だ。
私達に対して同情を覚えたお義母様が、一般生徒でも気軽に聖女様に相談できるようにとこの仕組みを考えた。
「恥ずかしいのなら匿名にしても構わないし、仲の良いシエラ君宛にすれば良い。シエラ君に相談できないことなら、私でよければ聞くさ」
こんなことにお義母様を巻き込むのは忍びない。
お義母様は私達に遠慮するなといつも言うけれど、正直お義母様の貴重な時間を私に使わせることはしたくない。
だって大聖女様の助けは、常に何処かで求められているのだから。
「ご指導ありがとうございます。しばらく、自分で考えてみます……」
「そうか。だが一人で考えても答えが見つからないなら、早めに相談した方がいい」
「ありがとうございます、涼花様」




