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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第23章 奇策妙計
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閑話49 賢者様

【エルーシア視点】

「ごきげんよう、賢者様!」

「ごきげんよう、皆様……」

「賢者様、荷物をお持ちしますよ!」

「あ、あの……!私はそんな大層な身分ではございませんので……!」

「Sランク冒険者様が大層じゃないなんて、ありえませんわ!」

「そうですわ!それはあなたのこれまでの頑張りがあって成し遂げた偉業なのですから」


 本当にそうなのでしょうか……?

 ソラ様に教わるがまま享受していた修行ですが、これに関してはどうしてもその意図が掴めずにいます。


「それにしても、王女との一騎討ちは燃えたわ――」




 ――それは二位決定戦での出来事です。


 ソラ様に負けた私は敗者トーナメントを勝ち上がったソフィア様と対峙しておりました。


<二位決定戦を勝ち残ったのは、我らが王女様!我らが聖徒会長!3年Sクラス、ソフィア・ツェン・ハインリヒ!>


「ふふ、実は貴女と対戦できること、密かに楽しみにしておりましたの」

「ど、どうしてですか?」

「だって、本物の一番弟子は貴女でしょう?貴女は誰もが羨む大聖女様の一番弟子……」


 羨む……そうですよね。

 ソラ様は気まぐれで私を育てたみたいですが、それは専属侍女がたまたま私だったからです。

 別にそれが私以外だったとしても、お優しいソラ様はその人を弟子に取っていたと思います。


<対して、見事優勝をしたシエラ・シュライヒ選手のメイドさん、『水の賢者』様とは私のことだ!1年Sクラス、エルーシア!>


「二人とも、頑張れー!」


 シエラ様が手を振って応援してくださいます。

 ああしていると、ヒロインのようにしか見えませんね。


「ふふ、師匠の前ではお互い、無様な姿は見せられませんね……」


<それでは、泣いても笑っても今年最後の試合、準備はよろしいでしょうか!いきますよ、スリー!ツー!ワン!>


「「「トリック・スタート!」」」


 私がテティス様を出すと、ソフィア様もフェネクス様をお出しになります。


「フェネクス、今回は勝ちを譲って貰うわよ!」

「キュイイイ!」

「テティス様、手筈通りに!」

「分かってる!」


 ソフィア様とフェネクス様の放つ煉獄炎(インフェルノ)にテティス様と一緒に大洪水(グレート・フラッド)を合わせます。


 相殺される火の嵐と水の津波は、暖かい水がお互いの足元に流れるのみでした。

 これでは互いに火力が足りず、相手にダメージを与えられません……。


<ちょっと、どうするの!?()()()()わよ!>


 テティス様が確認を求めてくるも、答えている暇はなく、ソフィア様達の放つ煉獄炎(インフェルノ)は止みません。


「どうしました!?決勝ではあんなに見事な戦いをシエラさんと繰り広げていたのに!」


 私達が相殺するも、()()()()()()()()()()()()()


 恐らく、()()()()()()()()()()……。


 それを反芻して、私はひとつの答えに辿り着きました。


<テティス様、ソフィア様の方だけ相殺できますか?>

<えっ……できるけど……>

<ソフィア様の方だけ防いだら、残りは私に任せてください!>


 テティス様は迷う暇もなく飛んできた煉獄炎(インフェルノ)大洪水(グレート・フラッド)で相殺します。


 残ったフェネクス様のより強い煉獄炎(インフェルノ)は、私を覆う大きな炎へと成長していきます。


<ちょ、ちょっと、エルー!?>


「……ここです!!」


 ソフィア様で何度も練習をしたリフレクトバリアはタイミングよく、煉獄炎(インフェルノ)は更に大きな焔となりソフィア様達に向かっていきます。


「っ!?炎を扱う私達に炎を向けるとは!!あまり私達をなめないでください!!!フェネクス様!」

「キュイイイッ!!」

双色の(ツイン・)煉獄炎(インフェルノ)!」


 ソフィア様達は青と赤の混ざり合う合成魔法で私の返した煉獄炎(インフェルノ)を相殺しようとします。


<今です!>

<任せて!>


 焔と焔が重なりあう時、私はテティス様と合成魔法を放ちます。


「「特大洪水(ヘヴィー・フラッド)!!」」


 突如産み出された大量の水が急に高温の焔に挟まれると、まるでフライパンの上に落とされた水が弾け飛ぶように、大量の水蒸気となり爆発を起こしました。


「しまっ……!?」


 これが水蒸気爆発……。

 水魔法を使えるようになってから、水関連のことについて調べることが増えました。

 その結果かはわかりませんが、ソラ様から「まるで水博士だね」とお褒めいただいたことが、今では私の誇りです。


 とはいえこんなもの、私も食らってしまえば一撃です。

 全範囲で逃げる術もなく、魔法を使ってしまった後のクールタイムがあります。


「…………」


 私はおもむろに左手に杖を持ちかえると、タイミングよくリフレクトバリアを張ります。


 タイミングさえ合っていれば、魔力はさほど必要ないとソラ様からお聞きしましたが、もしタイミングが合わなかったとき、それは死に直結します。

 ソラ様がお使いになる度に私の心がざわざわとしてしまうので、本当なら使っていただきたくはないのですが、これほどまで威力の高い自然現象は属性防御魔法や障壁で防ぎきれない以上、私も頼ってしまわざるを得ません。


「くっ!?」

「エルー!?」


 とっさの判断でしたが、左手でリフレクトバリアを張ったせいか、わずかにタイミングが合わずに割れてしまいました。


「まだよ!」


 テティス様が分厚い氷の盾(アイス・シールド)で防ぎ、時間を稼いでいる間に、クールタイムが戻った右手に持ち換えます。


「もうダメッ!」


 決壊する氷の盾(アイス・シールド)のタイミングに合わせて、再びリフレクトバリアを張ります。


「……止まってっ!!!」




 私の願いが届いたのかパシリと音がして、爆風は反対側へと流れていきました。


 ビィイイイイイ!


 勝利のブザーが鳴ったとき、私は情けなくへたりと膝をついていました。




「やられました……。まさかシエラさんの奥の手を、見よう見まねで使うとは……流石は一番弟子、『水の賢者』様ですね」


 発生した霧の向こうから歩いてきたソフィア様は私に握手を求めました。


「ソフィア様こそ、まさかもうフェネクス様との連携で合成上級魔法を放つとは、予想外でしたよ……」

「それもいいように利用されたじゃありませんか……。水蒸気爆発……なるほど、あの方が一目置くだけはありますね」

「買い被りすぎですよ……」


 あのお方にはまだまだ届きもしません。

 今日はそれを目に沁みて感じました。

 「いつかあのお方の隣にずっといられるように」という私の密かな願いのために、私もまだまだ頑張らないといけないと再認識させられました。

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