第182話 時間
それから僕は獏に透明化して貰いつつ、勝たせたいであろう相手にワイアット男爵が不正武器を渡す現場をリアルタイムで映像魔法に残し、その後武器を交換する作業をひたすら行っていた。
武器は学園指定のものによく似た見た目の強い武器を渡していた。
どうやら世間では手に入らない貴重なもののようで、その入手ルートを問い詰めるためにもそのままアイテムボックスに入れていたんだけど、試合後にワイアット男爵が回収したものが学校指定のものでも当の本人は全く気付く素振りもなく……。
相手が気付いてパニックになることを想定してその先も考えていたのに、これでは拍子抜けだ。
準決勝の生徒を送り出し、別室でひと息つく。
「ふう……」
<お疲れ様>
<エ、エリス様……?どうかしたんですか?>
最近、エルーちゃんに加護持ちは念話で会話できることを教えて貰った。
エリス様からの念話は文字通り天から届いているかのようだったから、一方的にしか語りかけられないのかと思っていたのだけれど、違ったらしい。
でも確かに一方的だとお互いに離れ離れの時に色々困るよね……。
ティスはおしゃべりだから、エルーちゃんに迷惑をかけていないか心配だ……。
<珍しいですね、エリス様から声をかけてくださるなんて……>
<ソラ君、あなた頑張りすぎよ……>
<え、そんなことはないと思いますが……>
<試合、見たくないの?>
<……まあ、見たくないといえば嘘になりますけど、いいんですよ。こっちは代わりがいませんから……>
「いないわけではありませんよ」
「ひああっ!?」
突然耳元でささやかれ、吐息があたってびっくりする僕。
「旦那様、お久しぶりです」
「その声、シルヴィアさんっ!?」
僕には全く見えないんだけど……。
「『ちょっと、シルヴィ!あなた今見えないんだから!ソラ君は耳が弱いの!』」
「す、すみません旦那様!ああでも腰がくだけて立てないでいる旦那様も可愛らしくて素敵です……!」
「あれ?シルヴィアさんって、私のこと嫌いだったんじゃ……」
「な、何を仰います!?わ、私が旦那様のことを嫌っているなど、あり得ません!私の体も心も、主が作ってくれたものなんですから!」
「『むしろ、ね……』」
「あ、主っ!?」
降神憑依は、相変わらず一人芝居をしているようにしか見えない……。
「しかし全く見えないですね……。これがエリス様の無属性魔法ですか?」
「ええ。主の無属性最上位魔法、『無色の幻影』です」
「無属性に最上位があるんですかっ!?」
声の主に駆け寄って虚空を掴むと、確かに人の温もりがある。
「だ、旦那様……!?『んっ……!』」
って、この弾力……まさか……!?
「ご、ごめんなさいっ!シルヴィアさん……」
「い、いえ……」
「『ソ、ソラ君に触られちゃった……!わわわわわ……感触がっ……!』」
「主……」
「『はっ!?な、何でもないのよ……。最上位はどの属性にもあるわ。聖女に渡しているのは光の加護だから、光属性の最上位しか使えないだけなの』」
「そ、そうだったんですね……。どうしてここに?リッチは大丈夫なんですか?」
「『この間倒したし、しばらく湧かないから平気よ。それよりさっきの話に戻るけど、この役は私達が代わるから、ソラ君はイベントを楽しんで欲しいの』」
「えっ……どうしてですか?」
「『こんな奴らにソラ君の大切な時間が取られているなんて、私が許せないの……!』」
いや、僕なんかより神様の時間の方が大切だと思うんだけど……。
「『今を楽しんで、ソラ君。それが私からのお願い』」
「もう、いつも優しいんですから……。ありがとうございます」




