第181話 女装
そしてやってきた武術大会。
朝早く、奥のレストルームに集まったのはアルバイトと主体になって動いていた聖徒会のメンバー達。
既に聖印を付与しておいた帽子をアルバイトの皆さんに渡す。
「って、シェリー!?どうしてここに……」
「おか……もごもご」
僕は慌てて口をふさいだ。
「そんなことより、お小遣いが足りなかったのなら言ってくれれば……」
「ち、違いますからっ!」
「じゃあ、どうして……」
シェリーはもじもじとしていたが、やがて答える。
「ええと、その……取材のために必要なんです!」
明らかに目が泳いでる。
なんか隠し事してる……?
「それよりシエラ様こそ、どうしてこちらに……」
「ちょうど、今から説明がありますよ」
ソフィア会長の説明を受けると、立腹するシェリーと生徒達がいた。
「学園の行事をそんなことに使うなんて、許せません!」
「でも今から私達がやることも、相手のやっていることとあまり変わらないですよ」
公的だろうが、やっていること自体は賭け事だ。
「やり方の問題に大きな差があります!それに、お義母様のやっていらっしゃることに、間違いなんてありません!」
僕自体が「間違いの塊」みたいなものなんだけどな……。
会場からワアーッと盛り上る声が響いてくる。
あっちは楽しそうだ。
僕は今何をしているかというと、獏を召喚して透明化し、「ワイアット男爵の妨害工作」の妨害工作だ。
「頑張ってね」
「ありがとうございます……」
試合が始まる前からワイアット男爵を張っていたんだけど、まさか直接本人が渡しに来るとは思わなかった。
ワイアット男爵は『幻影のお香』の効果でミカエラ先生の姿に偽装していたのだが、獏のせいで上書きしてしまっていた。
本人は誤魔化せていると思っているのだから、シュールなその光景が笑いを誘う。
試合前のセフィーは不正の証拠である武器を受けとると、会場前の角を曲がってから具現化した僕に渡して、僕は代わりに所定のグローブを渡す。
「はい、お義母様!……ぷっ」
「ちょっと、セフィー!笑わないでよ……」
獏の幻影魔法で誤魔化しているとはいえ、さすがに変なことをしすぎれば相手も気付いてしまう。
「だって……あんなのっ……笑わない方が……無理ですよっ!……ぷっくくく……」
ワイアット男爵は敢えてお香の効果が切れてもいいようにか何なのか、女装をしていた。
だが、僕は嗤えない。
明日は我が身。
共に女装をするものとして、僕が嗤うわけには行かないのだ。




