第180話 賭博
「賭博、ですか?」
「ええ。一部の貴族の間では恒例の行事のようで、毎年行っているようです」
「……っ!私達の努力をなんだと思っているのでしょうか!?」
エディス様の言うように、生徒を雇用する目的でスポンサーをやっているのなら、こんなことはしないだろう。
「その上、『精霊樹の杖』で不正をしようとしたのですよね?ミカエラ先生は何を条件に、その話に乗ったのでしょうか?」
「最初はシエ……ソラ様の教え方反発していましたが、やがて実力が上がっていることを知ったときに、私は焦っていました……。そこに、ワイアット男爵が現れて私にこう言ったんです。『この杖を使って、何としても勝て。約束を守れば、その杖はお前にやろう』と……」
「……えっ、『精霊樹の杖』が欲しかったんですか?」
思わず拍子抜けしてしまった。
「当たり前です!数本ですら世に出回らないのですよ?魔法使いなら誰もが欲しがる一級品です!」
そ、そうなんだ……。
市場についてはまだまだ疎いから分からなかった……。
「こんなのでよければいくらでもあげましたのに……」
じゃらじゃらと30本くらい『精霊樹の杖』を取り出すと、三人がぎょっとする。
「ソラ様、出す前に一言申してください……。いつも心臓に悪いですよ……」
そんなこと言われても……。
「もっと市場に出回らせた方がいいのでしょうか?」
「そんなことをすれば、市場がパニックになりますよ……」
「でも、皆さんの力がつかないと、また魔王が来たときに困りますし。それとも、クラフト素材の入手場所を広めた方が効果的でしょうか……?」
「素材の在処がお分かりになるのですか!?」
「ええ。一通りドロップする迷宮の場所は分かります」
「……」
口あんぐり。
このままだと、何を言っても驚かれそうだな……。
「しかし、賭博とは……」
「恐らく次は武術大会に照準を合わせに来るでしょう……」
「それなら、やり返しませんか?」
「でもただやり返すのは癪ですね……そうだ!どうせなら、公式行事にしてしまいませんか?」
「……賭博を学園行事に?」
「例えば金貨1枚で涼花様の券を1枚購入し、涼花様が優勝したとします。全体の売り上げの半分から、涼花様の券を持っている人で山分けするんです。1位が全体の半分、二位が4分の1、三位が8分の1とすれば、足りなくなることはありません。これで1事業ができますよね」
「なるほど、余った金額は生徒に還元するのですか?」
「一試合勝つごとにお金を貰えるとなれば、やる気も上がるでしょう。その上、アルバイトを生徒の中から募って、券を配る仕事や、他にも軽食などを行える売店を設置していただき、その営業を任せるんです。職業訓練の一貫にもなりますし、学費や生活費を稼ぎたい人もいるでしょうから」
「ふむ……」
学園長とミカエラ先生は考え込む。
「そうしてできたお金を学園に還元して、奨学金制度をもっと幅広い生徒に使ったり、杖を買えるだけの給金を先生に還元したり、教える人を増やしたり……。学園にとっても、お金はあって困ることはないでしょうから」
「ただ、そううまく行くでしょうか……?」
エディス様はあえて逆側の立場に立ってくれた。
「学生主催でやってしまうと、どうしてもお粗末なものと思われないかなと……」
「それならアルバイト募集の間は告知せず、当日に私の聖印を付けた帽子をアルバイトの子達に配りましょう」
「えっ……」
「それくらいならいくらでも協力しますよ。信頼も得られていい働きになってくれると思います。そして勝ちを確信した彼らをうまく妨害して嵌めるんです。券の受付に映像魔法が使える人を置いておき、その情報から売りさばいた券の枚数と各貴族の賭け金を照らし合わせればワイアット男爵の一派をあぶり出せる上、連中からお金を巻き上げることができますね……」
「「「……」」」
「どうしたんです?皆さん揃って……」
「い、いえ……」
「ソラ様は怒らせると恐いことが分かりました……」
そうかな?
僕の家族に比べれば生ぬるいと思うけどな……。




