第178話 虚偽
「まさか、『精霊樹の杖』を大会に使っていたなんて……。どうやって気付いたのですか?」
「消去法ですね。威力が高いのに発動速度が遅いというのは、誰かから大量に知力のグミだけをもらって食べたか、装備品くらいしかあり得ませんから……」
「そんな数少ない情報から究極の二択にするだけでも相当の知識量を秘めていますよ……。それに聖女様の文献にしか出てこない伝説のグミを一般人が持っているわけがないのですから、それは実質一択では?」
まあそうなんだけども……。
ちょっと納得がいかなかった僕は、手元に余っていたグミを取り出す。
「ちょっと……!なんてものを取り出しているんですかっ!?」
「エルーちゃんも私も一般人なのに……」
「あなたたちはどう見ても逸般人です!」
……学園長に言われるのだけはなんか納得いかない……。
「失礼します」
学園長に続いて入った部屋に、ミカエラ先生はいた。
ここは大会の控え室の隣にある倉庫。
ミカエラ先生は何かを探すように物色していた。
「学園長に、シエラ……。ああ、勝負の件ですか?私の負けですよ」
「探し物は、これですか?」
「っ!?……何のことだ?」
僕が『精霊樹の杖』を取り出す。
実は僕と当たった生徒の一人と杖を交換しておいたのだ。
「一本、足りなかったんじゃないですか?」
「……いくら『木の杖』とはいえ、学校の備品だ。勝手に持ち出されては困る」
シラを切っているのか、バレていると思っていないのか……。
生徒のみんなを、あんな目に遇わせておいて……。
僕はそろそろ堪えられそうになかった。
ミカエラ先生は僕のところに来て取り上げようとしたが、僕はそれを避けるように杖を後ろに隠した。
「何の真似だ?」
「これは正真正銘『精霊樹の杖』です。鑑定も済んでいます。私の対戦相手、2年生のフレシア様が大会で使っていたものです」
「……それが本当なら、彼女は不正したことになるな」
「フレシア様は、あなたからこの杖を受け取ったと仰っていましたよ」
「……口先だけの証言なら嘘もつけるだろう」
そこへ、コンコンと戸を叩く音が聞こえた。
「どうぞ」
「失礼します」
「貴女は確か……3年のエディス・ベレスフォードさん?どうしてここに?」
「エディス様、早速ですが……」
「ええ」
エディス様にわざわざ来て貰ったのは、彼女が不正の証拠を握っているからだ。
ヴンと音がして写し出された映像には、エディス様の視点でミカエラ先生に杖を渡す姿があった。
「これはっ!映像魔法!?」
「騙しの効かない映像魔法なら、真偽がハッキリするでしょう?」
あの時、僕はエディス様に「よく見ておいてください」としか言わなかったのだが、エディス様はわざわざ映像に残してくれたのだ。
受け取ってすぐさま奥の部屋に進むミカエラ先生と、それを静かに追うエディス様。
「っ!?」
「ご本人なら、この後何が起きたか分かりますよね?」
何かを悟り、とっさに杖を構えたミカエラ先生を、閃光の束縛糸で縛り上げる。
「くっ!」
「黙って最後まで見ていてください」
エディス様が奥の部屋を覗いたとき、ミカエラ先生は小太りの男性と口論していた。
「あ、ああ……」
「ミカエラ先生、彼に見に覚えがないとは言わせませんよ?」




