閑話48 抜かり
【ゲイル・ワイアット視点】
ハインリヒ中の王族、貴族、会社などが集うこの大会。
金回りがいい集団が集まれば、この地に金を落として帰ってくれる。
賢い連中はこれが金のなる木だと気付いていた。
聖女や国の関係者にバレない程度に楽しむ娯楽として、裏で賭博をし始めたのだ。
我々がそのおこぼれを貰うには、この聖女学園の魔術大会と武術大会はまさにうってつけのイベントというわけだ。
私は今回、完璧な下準備をしてそれに挑んだはずだった。
「どういうことだ……?」
「ゲイルめ、さては我々をハメやがったな……!」
「お、落ち着いてくださいクリストフ伯爵!我々をハメたのはあの協力者でして……」
「我々はもうベットしてしまっているんだぞ!」
モンド子爵は私に顔をくっつけると、嫌みたらしく私の顔をなで繰り回してきた。
「武術大会の方は大丈夫なんだろうな……?」
「も、もちろんでございますよ……!」
「次はないと思え。行くぞ……」
二人が去ってばたりと扉を閉めると、私は控え室に置いてあった木の杖を叩きつける。
「クソッ!」
どうして私がこんな目に合わねばならんのだ……。
わざわざとっておきのルートから『精霊樹の杖』を仕入れて仕込みまでしたというのに……。
『木の杖』と同じ色でほとんど差はなく、使ってみるまで見分けがつかないとまで言われているのだから、観客や生徒にバレるわけがない。
あのアマ……調子に乗りおってからに……!
きっと、生徒かわいさに裏切れなかったのであろう。
奮発してあの連中まで使いこなした私が、男爵からの完璧ともいえる花形ルートを組み上げていたというのに……!
このままでは、私が負け犬になってしまう。
他人を後ろから操るのでは、それが問題児だったときに計画が一気に崩壊してしまう。
やはり他人は信用ならない。
……私が直接やるしかない。
背に腹はかえられぬ。
待っていろ、クリストフ伯爵、モンド子爵……!
今度の私は抜かりがない。
闇の連中にも高い金を払ってまでわざわざ特注を用意して貰っているんだ。
私が目にものを見せてやる……!




