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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第22章 鶏鳴狗盗
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閑話47 下克上

【ソフィア・ツェン・ハインリヒ視点】

 シエラさん(ソラ様)が見つけた不正などいくつか問題を抱えていましたが、それも杞憂に終わってくれました。


 帰ってきた私の最後の年の舞台。


「やっと、一年前の借りが返せます……」

「その台詞で確信したわ。ソフィア会長、()()……ソラ様に師事しているのね」

「っ!?マヤさん、まさか貴女、気付いて……!?」


 あの魔力量以外完璧なソラ様の変装が、まさかバレたとでもいうのでしょうか……?


<ベスト8の見逃せない試合!向かって右手の試合のご紹介をいたしましょう。前回大会優勝者、2年Sクラス、マヤ・エドウィン!対して、下克上なるか!前準優勝の我らがハインリヒ王女、3年Sクラス、ソフィア・ツェン・ハインリヒ!注目の一戦です!>


 ミアさんの声が鳴り響きます。


「ふふ、私が勝ったら、言いふらしてしまおうかしら……?」


 そ、それだけは絶対に阻止せねば……!

 今回だって、ソラ様が気付いてくださらなければ、不正を行おうとした輩の存在も影に隠れたままだったことでしょう。

 ソラ様からの数々の恩を私が仇で返すわけにはいきません。




<皆様、準備はよろしいでしょうか!では、注目の試合に、スリー!ツー!ワン!>


「「「トリック・スタート!」」」


 かけ声を聞くや否や、マヤさんは「氷結晶(アイスクリスタル)の網(・ウェブ)」と唱えました。


 融かすことの難しい大きな氷の結晶を蜘蛛の巣のように張り巡らしていく、マヤさんの得意魔法。

 魔力を練っただけ範囲が広がり、魔力量の大きいマヤさんが放てば、特大範囲に渡ります。

 前回はあれが突破できずに負けてしまいました。

 以前よりもあきらかに範囲・大きさ・威力の優れたそれは、ソラ様の仰った「練度」上げの賜物でしょう。


<ソフィア。お前には私の加護があるのだから、これくらいどうということはありません。いきますよ!>

<はいっ!>


炎の壁(フレム・バリア)!」


 フェネクス様のご加護で火魔法は威力が倍になります。


 以前は防げもしなかったというのに、今は炎の壁の中に入ってきすらしません。


 一年前との歴然の差に、私は思わず苦笑いしてしまいました。


 その上、ソラ様がレベルが低いと練度の恩恵が得られないと仰っていたのがはっきりと実感できます。


 あのお方は常に最善を提供してくださいます。

 今まで以上に盲信する狂信者へと成り果ててしまいそうですね。


「フェアじゃなくてごめんなさいね……」


 でも、私は立ち止まってはいられません。


 今度こそ民を守る立場になるために。

 今度こそサクラ様の横に立てるように。


煉獄炎(インフェルノ)!」


 ビィィイイイイと鳴る効果音を背に、私は改めて決意を固めました。




「会長はどうやってそれほどの力を……?」

「それを聞きたかったら、試合前のことを何処で知ったのか、吐いてください!」


 私は少し大人げないと思ったが、ソラ様の件について腹に背は変えられません。


「ああ、ごめんなさい。会長のやる気を出すためについた嘘です。まさか本当だとは……」

「なっ……!?」


 しまった……!?

 よりによって、早とちりで私がやらかすなんて……。


「ふ、ふふふ……」

「ど、どうして笑ってるんですかっ!?」

「ごめんなさい。知っていたのは本当です。ソラ様に助けていただいた時に教わっただけです」


「よ、よかった……」


 安心しきったら、腰が砕けてへなへなと崩れ落ちてしまいました。




「さあ、こっちは答えましたよ」


 私を起こすために手を差し出すマヤさん。

 私はその手を強く握り返して起き上がり、そのままバッと手を離して踵を返しました。


「意地悪なマヤさんには教えませんっ!」

「……悪かったわ」

「……まあ、どうせ次で分かりますよ……」


 次の試合こそが、私の本命なのですから――

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