第175話 解禁
マヤ様とソフィア会長の試合は、ソフィア会長が勝ったらしい。
<ついに来てしまった!王女と大聖女様の弟子のカードが!>
準決勝は僕とソフィア会長。
僕としてはなるようになったという感じだ。
<前回大会優勝者を倒すという番狂わせを成し遂げたのは、我らが王女!我らが聖徒会長!3年Sクラス!ソフィア・ツェン・ハインリヒ!>
ワアアアと観客が湧く。
<対して我らが謙虚!可憐・オブ・弟子!今日はルークお兄様も見守っているぞ!1年Sクラス!シエラ・シュライヒ!>
えっ……!?
ルークさん、来てるの!?
思いがけず会場を見渡すと、サクラさんとアレンさんから少し離れたところで、お義父さんとお義母さんと一緒にいた。
そういえば、聖女院とシュライヒ侯爵家はスポンサーだったのを忘れてた……。
皆が来てくれるのは嬉しいけど、正直恥ずかしい……。
「ふふ、恥じらうシエラさんもまた乙なものですね」
「何感慨に耽ってるんですか……」
「プリティーグッドというやつですよ。可愛らしさに掛けてみました」
わけわかんないこと言わないでほしい。
<さて、これまでシエラ選手はリフレクトバリアのみで相手を翻弄して勝ってきました。お互いに本気を出していなかった感じでしたが、今回はお互いの本気が見られるのでしょうか?>
「さて、ここまで我慢したんですもの。お互いに全力でいいですよね?」
「ええ」
僕はその意図をうまく理解できずに頷いてしまった。
<では参ります!準決勝第二試合!スリー!ツー!ワン!>
「「「「トリック・スタート!」」」」
小手調べで放った煉獄炎をリフレクトバリアで跳ね返すと、炎の壁と同時に黄色から深紅まで鮮やかな羽を持つ不死の鳥がソフィア会長の腕から現れた。
「フェネクス様!お願いします!」
「キュィイイ!!!」
全力って、そういうことか……。
これが加護の恩恵を最大に生かした全力の戦い方。
もしかして、ネクスに教わったのかな?
<おおっと!?ソフィア選手から出てきたのは、まさか!?聖獣フェネクス様だぁああ!前回負けたマヤ選手に勝ったのはフェネクス様がついていたからか!?ついに本気を出したソフィア選手に、シエラ選手はどうする!?>
僕の加護をバラす訳にはいかないし、ただでさえ最上級魔法や聖女特有の技を使えない縛りをしているのに、二対一をすることになるとはね……。
「ネクス、戦うのは久しぶりだね……。それから、あとで覚悟しておいてね……」
「キュィイ……」
ネクスは羽をたたんで少ししょげてしまった。
「ちょっと!?脅すのはズルいですよ!」
驚かされたのだから、これくらいの意趣返しは許してほしい。
「いきます!」
今は僕が召喚したわけではないから、ネクスは自由に動けるし、僕に攻撃も出来る。
ネクスは武器の影響なく魔法を放てるから、『木の杖』で低レベルな戦いをしている中でネクスを介入させるのは本当にズルい。
僕はエリス様を呼べる訳じゃないしね……。
ああでも、シルヴィアさんなら呼べばくるかもしれないな……。
フェネクスは青く輝く煉獄炎を放ち、ソフィア会長は普通の煉獄炎を放つ。
練度の高い火魔法を僕は炎魔法と呼んでいるが、高温になり青くなる。
僕は身体強化をかけてそれらを避けて躱す。
<おおっと!シエラ選手、始めてリフレクトバリアを使わなかった!それほどの相手だということか?>
「もう少し修行をつけておけばよかったかもしれませんね……」
ぼそっとそう呟くと、ネクスに詰めよって、手を翳す。
ごっそりと魔力を使っても、試合が終わると元に戻るのだからここは楽でいい。
パァン!
どでかい破裂音を鳴らすと、ネクスが跡形もなく消え失せた。
「フェネクス様っ!?」
以前身体強化の時にやった強化魔法を自分から離れたところにかけて木っ端微塵にする技だ。
無属性の強化魔法としては僕の考えられるなかでもっとも強い技。
まあ不死鳥だから時間がたてばここじゃなくても元に戻るんだけど、そんな時間は与えない。
「あっ!?」
「チェックメイト」
会長の杖を取り上げて、両杖を会長に向ける。
「……降参です」
「練度がまだまだですね。発動が遅いのが致命的です。あと、ネクスとの連携が取れてないです。付け焼き刃にしてもバラバラです」
ネクスは塵にしてしまって申し訳ないけど、二対一を提案したのは絶対にネクスだろうから、報いは受けてもらおう。
「うう……お小言が多すぎますよ……。今度また修行をつけてくださいね、お師匠様」
「嬉しいですね……貴女くらいですよ。私の修行をつけてほしがる人は」
「あら、それはいいことを聞きました!これからはどんどん御願いすることにしますね」
もうひとつの秘密を知らない人に教えることはあまりしたくないんだけどな……。
<……き、決まったあああっ!シエラ選手の圧倒的勝利!リフレクトバリア以外を使わせましたが、結局光属性魔法を使わないで勝ってしまったあああっ!>
会場は一瞬の出来事に暫く無言だったが、ミア様の実況を聞いて、遅れたように沸き上がる。
「さて、決勝戦、見たいですが二決のトーナメントに行ってきます。エルーシアさんとの試合、頑張ってくださいね」




