第172話 不正
魔術大会の武器は全員が統一で『木の杖』を使う決まりになっているはず。
まさか、エディス様が不正……!?
いや、それなら何故エディス様自身が自分の魔法に驚いたのか説明が付かない。
つまり、第三者が不正を働いていて、エディス様はそれに巻き込まれている……?
どちらにせよ、もう大会は始まってしまった後だ。
大会中は不正防止のために先生や観客と接触することは禁止されている。
これでは密告もできない。
堂々と告発すれば解決はするかもしれないが、確実に大事になる。
それにぽっと出の僕なんかが告発したところで聞き入れてくれるかどうかわからない。
真相がわからない今、僕が今とれる行動はただ一つ。
この試合を早めに終わらせることだけだ。
「反撃しないの?ナメられたものね……」
石の棘が止んで空中から降りるエディス様は次なる魔法を放った。
「開花する棘」
辺りに生えた石の棘の中心から生命が生み出されるように、今度は木が、そして棘のついた蔦がうねうねと生えてくる。
僕はそれを発動と同時にリフレクトバリアで倍に跳ね返す。
跳ね返すと同時に張っていたバリアを解除し、すぐさまそれを跳ね返すようなリフレクトバリアを張る。
僕のリフレクトバリアの練度は最大。
つまり、発動速度なら誰にも負けない。
これを繰り返すことで、どんどんと倍になった魔法は威力も大きさも速度もとんでもないことになる。
膨張した魔法は空間全てを満たす極大魔法へと進化を遂げ、エディス様を飲み込んだ。
――ビィィイイイイ!――
「な、何が起こったんだ!?」
「木と蔦だらけでよく見えないぞ……」
見られないというのがどんなにありがたいことか。
この空間の中だと時間経過で勝手に消えてくれるようだ。
本当に便利だな、チュートリアルエリア……。
「流石は弟子ね。最後は何されているのか分からなかったわ……」
相手を称賛するところを見ると、やはりエディス様は自ら不正をしようとしていたわけではないみたいだ。
「気を付けなさい。この大会、何かおかしいわ……」
エディス様は小声で忠告をしてくれた。
「やはり気付いておられましたか……。その杖を受け取りに来た相手の顔をよく焼き付けておいてくださいね」
「まさか……」
案外犯人は証拠を残さないために近くにいるものだからね……。
戻ってくると、隣で別の人と戦っていたエルーちゃんも初戦を終えていた。
「シエラ様、お疲れ様です」
「エルーちゃんもお疲れ様。そっちはどうだった?」
「なんだか相手方の様子がおかしかったです……」
「威力が高くて驚いていたとか?」
「まさか……」
「私が指導した皆さんを集めてもらえる?どうやらあちら側に隠れて不正をしようとしている輩がいるようなの」




