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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第22章 鶏鳴狗盗
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第170話 手心

 熱などがあって多少はドタバタしてしまったが、時間は早く過ぎていくもので。

 今日は魔術大会の開催日。


 この日は授業も休み。

 朝から地下訓練場に生徒がところせましと押し寄せる。


 貴族や王族も集まる今日の日だけは、学園は招待状を持つ人間を通す。

 地元であるハインリヒの王族や貴族、会社は普通に参加するが、他の国からは王族や貴族の代わりに代表して人事を行う使用人や下の階級の貴族に見に行かせるのだそうだ。




 僕は試合の前にソフィア会長とエルーちゃんで集まった。


「き、緊張してきました……」

「エルーちゃんは反対側だから、比較的楽なんじゃ……?」


 トーナメント表が配られたが、エルーちゃんは反対側の山。

 こちらの山にはマヤ様とソフィア会長がいた。


「それとこれとは違いますよ……。皆さんに見られながら魔法を打つのは、まだ慣れません……」

「慣れないって、以前もそういう経験が?」

「はい。シエラ様のメイドの試験として、戦闘力を皆さんに見せるんです。あの時は大変でした……」

「そうなのですね……」


 聖女院の人たちって、戦闘力も問われるの……?


「じゃあもしかして、ルーク……お兄様も魔法が使えるの?」

「ルーク様も多少は魔法が使えるそうですが、ルーク様の場合は執務官ですから。メイドとして、ないよりあった方がいいと言う話です」


 この世界で戦闘はできるに越したことはないということか。

 感覚的には免許証を持っているようなものなのかな?


「まあそんなに肩肘張らなくても、エルーちゃんなら普通にいい成績になっちゃうから……」


 それくらい、加護ってのはズルいものだからね……。


「ソフィア会長もですが、二人にとっては正直他の人たちは相手にならないと思います。というよりそれくらいでないとあの修行をさせた意味がありませんから……」

「そうですね、訓練のときに重々理解しました。あんなに弱く調整した煉獄炎(インフェルノ)でも障壁が壊れるなんて……」

「ですから、お二人には最低限の縛りをつけさせてください」


「……手心を加えろということですか?」

「まあ多少はそういう意味になりますかね……」

「多少は……?」


 エルーちゃんの首をかしげる姿が可愛らしい。


「この大会の目的を考えて戦ってほしいんです」

「大会の目的というと、出場者をスポンサーの方々に見ていただくこと、ですよね?」

「ええ。アピールしたい内容が戦闘向きな人もいれば、そうでない人もいるでしょう。ですが、私達が一発で相手を負かしてしまえば、そのたった一度のアピールの場をなくしてしまうことになります……」

「来年も代表になれるとは限らないですからね……」


「そうです。なので勝ち負けは個人の好きにしてもらって大丈夫ですが、相手のアピールポイントを引き出してから勝つなり負けるなりしてください」

「難しい注文ですね……」

「二人なら大丈夫ですよ、きっと」

「じゃあ、代わりにこちらからもシエラさんにお願いしてよろしいですか?」

「な、何でしょう……?」


 そう言うと、ソフィア会長はエルーちゃんを味方に付けたように抱き締める。


「絶対に、わざと負けたりしないでくださいね」

「う……」


 僕、これ以上目立つのは勘弁なのに……。


 でも、ソフィア会長と当たるまで勝っていたら、自然と最期まで勝たなきゃいけないんだよな……。


「わ、わかりましたよっ!」

「ふふ、約束です」


 皆にソラだって知られて大騒ぎになるよりはマシ……だろう。

 多分。

 きっと……。

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