第168話 弛緩
それから学園で授業を受け、放課後には魔術大会の参加者への講師をし、その後1、2時間くらいイザベラさんとの手合わせに付き合うルーチンになっていた。
イザベラさんとの手合わせではお互いに木の槍で行う。
「ほっ!はっ!やっ!」
イザベラさんの得意技は登校初日に僕に放った、槍の柄を棒高跳びのように跳躍し、そのまま重力を槍の威力に上乗せして振り下ろす技。
ゲームにはなかった技だが、イザベラさんはこの技を『鬼潰し』と名付けたそうだ。
「せいやっ!」
槍術の場合は技の組み合わせで相手の防御のアナを突破していくのが基本的な戦い方だ。
『鬼潰し』は重力と武器の性能に依存するため、性別やレベルにあまり依存せずに高い威力を出せるようだが、その反面前隙と後隙が大きいことが弱点のようだ。
なので基本的には小技で防御を崩し、仰け反った後に『鬼潰し』で仕留めるというのがイザベラさんの普段の戦闘スタンスだ。
「ふっ!」
僕が後ろに引いたタイミングで間を詰めるように『鬼潰し』を発動すると、僕は左に避ける。
するとイザベラさんは『鬼潰し』の威力を途中で弱める動作をとった。
違和感に気づいた僕は後隙に反撃するのをやめる。
『鬼潰し』の跳躍から地面に降りると、そのまま槍を縦に叩き切るのではなく、下なぎ払いをし、範囲の広い横攻撃に派生してきた。
「っと!今のは危なかったですね……」
僕はバク宙で後ろに避ける。
今までは後隙が大きすぎてここぞという時にしか使えなかったけど、大技と見せかけて後隙があるパターンとないパターンそれぞれがあることで、そこに駆け引きが発生する。
つまり、前隙さえ作れればどちらに派生するか分かりづらく、対人戦でも通用する技に仕上げてきたのだ。
「流石はイザベラさんですね。もうこんな技を思いつくとは……」
「難なく避けるシエラ嬢に流石と言われてもな……。初めて打ったのにこうも軽々と避けられると自信がなくなってくる。もしかして、涼花様ともいい戦いができるのでは?武術大会に出られないのが残念でならない……」
あまりこの話を深掘りされるとまたボロが出るので、話をそらす。
「強いて言うなら、弛緩させるのが少し早いですね。イザベラさんが力を抜くのを見たので、何かしてくると気付いて次に繋げられましたから」
「なるほど、ギリギリまでどちらに派生するか分からなくしろということか……」
イザベラさんは自分の手をグーパーと確かめている。
「イザベラさんなら器用だからすぐにできるようになると思いますよ」
「無茶を言ってくれる……」
「大丈夫ですよ……イザベラさん……なら……きっと……」
「シエラ嬢ッ!?」
僕はからだの自由が利かなくなってぱたりと倒れた。




