閑話45 お約束
【霞真視点】
私は真っ白な空間にいた。
ここは、どこだろう?
「マコトっ!?」
亡くなった昔の母親のような、私を心配する女性の声が聞こえてきた。
これは夢か。
光に手を伸ばすと、やがてどこか見覚えのある人影がぼんやりと現れる。
「ゲーム……くれた人?」
「私はエリス。この世界、アモルトエリスの神……」
神様?
確かさっきまで、塾の帰りにお父さんが載せてくれた車の中でゲームをしていて、それから車に衝突して――
「マコト、本当にごめんなさい!」
知らない世界の神様に身に覚えのない何かについて謝られる。
あ、これ知ってる。
異世界転生ってやつだ。
「も、物分かりが良すぎて怖いわよ……」
こちとらそれくらいしか娯楽がないのだよ。
というか喋らなくても会話できるとは、すごいな神様。
「魂を介して会話しているから……」
こいつ、魂に直接……!?
「マコト、普段無口だと思っていたけど、案外脳内が愉快な子だったのね……」
それ、貶してない?
「それに、知らない世界じゃないわ。貴女に貸したゲームの中を現実にした世界よ」
聖女モノだったか。
悪役令嬢モノじゃないのは少し残念だけど、平和なのが一番だ。
「本当は、あなたが『聖女への片道切符』を手に入れたとき、この世界に転移させる予定だったの。でも、その前に貴女の心臓が止まってしまったのよ……」
やっぱりあの光景は、嘘じゃなかった。
私はあの衝突事故で死んだらしい。
「お父さんは、無事?」
「…………」
首を横に降るエリス様。
「あなたも薄々勘づいているかもしれないけど、この事故はあの義母の仕業よ……」
やっぱり。
あのとき、私を塾へ送り出す義母一家がやけに気持ち悪い笑みを浮かべていたのを思い出した。
「貴女には知る権利があるから。私から手短に話すわね」
エリス様曰く、お父さんの相続目当てで私達を事故に見せかけて殺すために人を雇ったそうだ。
私達父娘は、騙されたのね。
なんというか、我ながらあっけない最期だった。
お父さんも、騙されやすい人だったから仕方ないかもしれない。
せめて来世ではいい人に巡りあってほしい。
「エリスでいいわ。元々私は貴女と友達になりたいと思って連れてきたんだもの」
「友達……」
「ええ、貴女さえよければだけど」
断る理由なんてない。
死んだら、神様と友達になってしまった。
「今の貴女は魂だけの状態。心臓の止まってしまった器は持ってこれなかったから、新しい器が必要なの」
「じゃあ、神様が器をくれるの?」
転生特典がもらえそうな展開。
「私の作った器に人間の魂なんかが入ったら、魂が耐えられなくて粉々に消し飛んでしまうわ……」
お約束ブレイクされてしまった。
神の器、物騒すぎるでしょ。
「代わりに、私の親友の子になってもらうわ!つまり、あなたはこの世界で初めて、聖女が産んだ聖女になるの」
これが本当のマトリョーシカ聖女……。
同じ聖女ってことは、お母さんも地球人?
「そうよ。ついでに言うと故郷も同じよ。ちなみに父親は剣聖と呼ばれているわ」
なにそのチート夫婦。
「二人は仲良し?」
何気なく聞いたが、私にとっては大事なこと。
「勿論。もう四六時中惚気ているくらいだわ。早く貴女が産まれてくれないと、周りが大変よ?」
つんと私をつつくエリス。
丁度いい。
それくらいでないと私はもう親を信用できない。
「名前の希望があるなら今のうちに聞いておくわ」
「いい。両親のネーミングセンスに任せる」
折角転生したのに、同じ名前はもったいない。
「じゃあ、生まれたらまた会いましょ!」
「ええ」
そう残してエリスは去っていく。
ああ、でも敢えてこの世界で悪役令嬢になるというのは面白そうかも。
まだ見ぬ世界に想いを馳せ、そんなことを考えていた。




