第167話 武勇
まずい、これではもう誤魔化しようがない……。
「セラフィー殿には同じ寮で仲が良いからとシエラ嬢のことについて尋ねただけだ。ただ、本人には答えられない質問をしてしまったようで、申し訳なく思っている……。すまなかった」
「シエラ様……」
「セフィー、ごめんね」
「そんな……」
セフィーの頭を優しく撫でる。
「これでは私が悪者だな……。本当に申し訳ない。だがもしシエラ嬢に本当に武術の心得が心得があるのなら、毎日少しだけでいいから手合わせをしてもらえないだろうか?」
「……どうしてそこまで……」
「そうか、こちらに来て浅いシエラ嬢には説明が必要か。シエラ嬢には、以前社交界で私の父を紹介したと思うが」
「はい」
フォークナー伯爵。
確か死線を潜り抜けた戦士のような強面の人だったっけ。
「あんな見た目で案外優しいところがあるんだが、それはさておき、フォークナー家もまたマグワイア家のように武力でなり上がった貴族でね。私が望んでいようがいまいが、周囲は私に武力を求めているんだ」
「……私は貴族になって浅いので分からないのですが、こういった価値観は普通なのでしょうか?」
僕はセフィーにそう聞いた。
「はい。あまりいい言い方ではないですが、親の武勇がお金になりそれで育っているのですから、周囲は自然とそれを期待するとは思います」
「いいところの家なら所作もしっかりしているだろう」という考え方の延長線上のようなものか。
所作とは違ってこういうのは得手不得手が少なからずあるのだから、それを強要されるのは不得手な人には辛いことだろう。
とても古い価値観だと思うけど、それをイザベラさんに言ったところで根本的な問題が解決するわけじゃない。
今回については本人も得意なところを伸ばしたいという意図のようなので、それにはあたらないだろう。
「敢えて言っておきますが、私なんかと手合わせなんてするより、アレン……様の言う通りに一発でも多く技を出していた方が上達すると思いますよ」
「……それでも、どうせ技を打つなら相手がいた方がいいだろう?」
うう……。
逃げられなかった……。
「わ、分かりました。ですが、私が武術をかじっていることは誰にも言ってはいけませんよ」
「……どうして?」
「……師匠から、学園内で使うことを禁じられているからです」
僕は平穏に過ごしていたいんだ……。
「……なるほど、それは申し訳ないことをした。大聖女様に問われたら、私のせいにしてくれて構わない」
言い訳がどんどん増えていく僕に少し嫌気がさしていた。




