第16話 斟酌
多目的ホールに着くと、紺色を基調とした礼服のような貴婦人が待っていた。
僕を見るなり、跪く貴婦人さん。
「ようこそお越しくださいました、大聖女さま」
あれ……?
なんでバレてるの!?
「私はアナベラと申します。ここ聖女学園で学園長をしております」
いくらサクラさんでも学園長には流石に伝えてるか……。
「……サクラさんから聞いたんですか?」
「先程お伺いしました。……私はこれでも学園ではサクラ様に次ぐ実力を持つと自負しております。戦闘実技のテストついでとして、是非お手合わせ願えませんか?」
「構いませんが……」
実力が学園長にしか公開されない状況は正直助かる。
でもなんか学園長の目、血走ってない?
「ふふふ……ありがとうございます。サクラ様には手加減なされたそうですが、私に手加減はしないでくださいますか?私は強者に手加減されるのが最も嫌いな事なのです」
そうは言われても、前回見学にきた時に全力でやってしまうと施設を壊してしまうことを学んだ。
聖女の建てた施設を壊したら流石に外にいる人達がおかしいと気付いてしまうだろう。
「ちょっと待っ……」
「ではいきます!」
学園長がダークスフィアボムと唱えると、闇の球が次々飛んでくる。学園長は闇属性魔法使いのようだ。
中級のリフレクトバリアで弾き返すと障壁で防がれる。
サクラさんに次ぐ実力と言われても、サクラさんと実力がどれだけ離れているか分からないし、やりすぎると壁や学園長に被害が及ぶ。
正直、手加減の具合が分かりかねていた。
「どうしましたか!?サクラさんはもっと蹂躙されておられましたよ!」
ボムが後ろに回り込んできたので反射バリアから全方位バリアに変えると、空いた左杖で炎属性のブレイズショットまで打ってくる。
炎と闇の2属性使いだったの!?
攻撃をやめたかと思ったら、杖を二つ交差するように構えだした。
「ここまで来れば、もうお分かりでしょう?」
「まさか……!?」
左杖から炎、右杖から闇の魔法を準備し始める。
炎と闇の上級合成魔法、ダークエクスプロージョンは自分も相手も大爆発に巻き込む諸刃の剣ならぬ諸刃の魔法。
裏ステージで出てくる黒魔道士という魔物が死に際に打ってくる魔法だ。
こちらがバリアしても、リフレクトバリアで跳ね返しても、両杖で魔法を放っている学園長を守る事はできなくなってしまう。
どうしようか手をこまねいていると、いつの間にか多目的ホールの客席にサクラさんがいることに気がついた。
サクラさんは手をグッドの形にして僕に向けていた。
「ああもう!」
僕は覚悟を決めた。
アイテムボックスから高速詠唱の付いた『大精霊の大杖』を取り出し、地面にカッと垂直に立て、魔力を溜め始める。
『――現し世の万物を覆滅せし神よ』
最上級魔法は詠唱が必要なのが玉に瑕なんだよね。
『今ひと度吾に力を貸し与えたまえ――』
大杖の先についている翡翠の水晶に溜めた魔力を解き放つように大杖を前へ掲げる。
『――ホーリーデリート――』
唱えた瞬間に僕と学園長、サクラさん以外の全てが消えた。学園長の放ったダークエクスプロージョンも、多目的ホールも丸ごと消えてなくなり、外の夕焼け空が見える。
多目的ホールの床すら消え、下にあった鉄筋コンクリートが露になった。
突如足元が消えた学園長は気絶して倒れそうになっていた。
慌てて駆けつけて身体を支える。
そこへサクラさんが歩いてきた。
「流石ね。まさかホーリーデリートを使うなんて」
「サクラさん、私がここの壁を壊せることは流石に言っておいて欲しかったです……。手加減しないでと言われたらこうなってしまいますから……」
「あら、気が回らなくてごめんなさい。そこの戦闘狂は預かるわ」
あ、やっぱり戦闘狂だったんだ……。
「それより、誤魔化しているうちにホール、戻してもらえる?」
予想通り、サクラさんが幻影魔法で誤魔化してくれていたみたいだ。
「いえ、せっかくなので作り直しましょう」
僕はアイテムボックスから『絶縁の塊』と『精霊の雫』を取り出す。
こっちに来て初めてのクラフトだ。
精霊の雫は施設を立てるときに使うアイテムで、クラフトで混ぜたアイテムで施設を作ることが出来る。
施設の素材となる絶縁の塊は裏ボスを倒すともらえるアイテムで、クラフト時に消費した魔力量以下の攻撃力を無力化する優れモノだ。
前にこの多目的ホールを作った聖女も、おそらく同じ素材を使っている。サクラさんが壊せなかったのは、その聖女がグミで魔力量を上げていたからだろう。
瓶に入ったポーションを呷り魔力を満タンにしてから、精霊の雫を絶縁の塊に滴す。
そして今までのストレスをぶつけるように絶縁の塊に全力で魔力を注いだ。
注ぐと同時に元の多目的ホールが形成されてゆく。
絶縁の塊は注いだ魔力量で色の黒さ加減が変わってくるが、元々暗い灰色だったからあまり変わらないだろう。
「助かるわ。けど、これじゃあまるで要塞ね……。誰も壊せないじゃない?」
だが灰色を超えて黒が濃くなってくると、だんだんサクラさんも焦りが見えてくる。
「ちょっ、ちょっと……!?それくらいでいいわよ」
意趣返しというほどのものではないけど、学園長の件のお返しだ。サクラさんも少しは困ればいいと思う。
室内が漆黒の壁で満たされたとき、僕はふらっと立ち上がって最後に一言、
「じゃあ、あとは任せ……まし……」
「ソラちゃん!?」
そう言うと、そのまま魔力切れで倒れた。




